9 養育費

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9 養育費

(1) 標準算定表(標準算定方式),改定標準算定表(改定標準算定方式)

親権者とならなかった親でも,未成熟の子の監護養育に必要な費用である養育費の支払義務を負います(なお,従前,養育費は一般的に「未成年の子」の監護養育に必要な費用と理解されていましたが,成年に達した場合であっても「自己の資産または労力で生活できる能力」がないときには未成熟の子として養育費の支払義務を負うことがありますので,「未成熟の子」の監護養育に必要な費用と理解すべきこととなります。)。
 婚姻費用が,夫婦間において離婚が成立するまでまたは別居が解消するまでの間に収入の多いほう(多くは夫)が収入の少ないほう(多くは妻)に対して支払義務を負うのに対し,養育費は,夫婦の離婚成立後に,非監護親が監護親に対し支払義務を負うものです。
 その養育費の金額は,基本的に夫婦双方の収入に応じて定められます。
 その基準として,従前は,「簡易迅速な養育費等の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案-」(判例タイムズNo.1111(2003.4.1))が定めた標準算定表(標準算定方式)が用いられました。
 しかし,令和元年12月23日に改定標準算定表(改定標準算定方式)が公表され( 「平成30年度司法研究(養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究)の報告について」) ,以後はこの改定標準算定表に基づき養育費が算定されることとなります(この改定標準算定表以前に取り決められた養育費についてはその取り決めどおりとする扱いになっています。)。


(2) 養育費の始期等

 夫婦関係調整(離婚)調停における調停成立や離婚訴訟における和解成立の場面では,調停や和解において養育費の支払について定めることとなります。

夫婦関係調整(離婚)調停における調停成立や離婚訴訟における和解成立より前に婚姻費用分担額か定まっているか夫婦関係調整(離婚)調停と同時に婚姻費用分担額が定まることが多いため,夫婦関係調整(離婚)調停成立か離婚訴訟における和解成立日の属する月までは婚姻費用分担額を,その翌月からは養育費を支払う(たとえば,令和2年7月10日に夫婦関係調整(離婚)調停が成立したとすると,同月までは婚姻費用を,同年8月からは養育費を支払う)ことで合意することが一般的です。


 協議離婚であっても,当事者間で「養育費として月額●円を支払う」という支払合意が成立し,かつその支払義務について強制執行受諾文言* 付の離婚公正証書を作成していたにもかかわらず支払がなされていないという場合であれば,監護親は給 与差押等の手段をとることができます。

また,強制執行受諾文言付の離婚公正証書が作成されていない場合であっても,当事者間で「養育費として月額●円を支払う」旨記載された離婚協議書等が作成されているなどその具体的な金額についての支払合意が成立していたことを証明できる場合には,監護親はその支払合意に基づいて非監護親を相手取って訴訟提起すること等が可能です。


 しかし,協議離婚の際などに養育費について支払合意に達していなかったり,抽象的に非監護親が監護親に対し養育費を支払う旨の合意をしているだけで具体的な金額についてまで合意に達していなかったり,当事者間で「養育費として月額●円を支払う」旨合意していたもののそれを証明することができなかったりする場合には,監護親は非監護親を相手取って訴訟提起すること等ができません。

この場合,任意交渉で養育費の支払について合意できないときには,監護親は養育費請求調停を申し立てるしかありません。
 この場合の養育費の始期については,現在の実務ではその「請求時」とすることでほぼ固まっています。
 そして,遅くとも養育費請求調停を申し立てたときが「請求時」となることには争いがありません。
 もっとも,調停申立以前に「請求」したことが認められればその「請求」した日の属する月からの養育費の支払義務が生じることとなります。
 とはいえ,その申立てが遅くなった場合に申立以前に口頭で請求したかどうかが争いになることもよくありますので,請求する側からすればなるべく早急に調停を申し立てるのが無難です。


(3) 養育費の支払義務の終期

 養育費の支払義務については,従前,満20歳に達する日の属する月までとするのが実務の大勢でした。

これは,子が成年年齢に達した以後の子の監護に要する費用は,請求の時点でその子が未成熟子であるか否かを問わず,監護親が非監護親に請求できる養育費等の対象とはならない(未成熟の子自身が非監護親に対し扶養料請求をすることしかできない)ということに基づくものでした。
 ところが,この考え方を徹底すると,成人年齢引下げげ施行されると養育費の支払義務の終期が満18歳となってしまいかねません。


このような状況下で,司法研修所編『養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究』(2019,法曹会)が次の考え方を打ち出しました(同書60~61頁)。

「改正法の成立又は施行後の養育費の支払義務の終期は,それぞれの事案における,諸般の事情,例えば,子の年齢.進路に対する意向及び能力,予測される子の監護の状況,両親が子に受けさせたい教育の内容,両親の経済状況,両親の学歴等の個別事情等に基づく,将来のどの時点を当該子が自立すべき時期とするかの認定,判断によって決すべきこととなる。

そうすると,例えば,子が大学に進学することを希望しており,かつ,その能力もあると認められるなど,子の大学進学の可能性が高いと認められる場合であって,両親の学歴,経済状況及び子に対する従前の対応等により,非監護親に大学卒業までの生活費を負担すべき事情があると認定,判断されたときは,子が一般的に大学を卒業する時と推認できる満22歳となった以降の最初の3月までを,養育費の支払義務の終期と判断すべきこととなる。
 なお,子が幼い事案など,子が経済的自立を図るべき時期を具体的に特定して認定すべき事情がない事案について,養育費の支払義務の終期をどのように認定,判断すべきかであるかが間題となる。
 これまでの家裁の裁判実務において,多くが満20歳に達する日(又はその日の属する月)までと判断されており,家事調停や和解においてもそのような合意が多くされていたことは既に述べたとおりである。
 その背景には,その判断当時において,別異に解すべき事情が認定できないときには,満20歳に達する日(又はその日の属する月)までについては,子が未成熟子である,即ち,現に経済的に自立していないだけでなく,一般的,社会的にみて子がその自立を期待されていないと考えられてきたことがあると解される。
 そして,そのような社会的実態について,改正法の成立の前後で特段の相違が認められるわけでもないことも既に述べたとおりである。
 そこで,改正法の成立又は施行後において,子の経済的に自立する時期や一般的,社会的にみて子がその自立を期待されている時期をどのように認定,判断すべきかを検討すると,前記2で検討したとおりの改正法と養育費等との関係からすれば,今後社会情勢等が変化しない限り,子が幼い事案など,子が経済的自立を図るべき時期を異なる時点と特定して認定,判断すべき事情が認められない事案においては,未成熟子である期間について,改正法の成立又は施行前と異なる認定,判断をする必要はなく,従前のとおり,満20歳に達する日(又はその日の属する月)までとされることになると考える。」


 簡単に言えば,「養育費の支払義務の終期は,子の大学進学の可能性が高く,非監護親が大学卒業までの生活費を負担すべき事情があるとされれば子が満22歳となった以降の最初の3月までとなり,そうでない場合には満20歳に達する日の属する月までとなる」ということとなります。


(4) 専業主婦の場合の収入の扱い

養育費の金額は,夫婦双方の収入に応じて定められますが,権利者が専業主婦でまったくの無収入だとしても,必ずしもまったくの無収入として扱われるとは限りません。
 満3歳未満の子供がいて就労できないといったような事情がある場合を除いて, 平成30年賃金構造基本統計調査 などの「短時間労働者の年齢階級別1時間当たり所定内給与額及び年間賞与その他特別給与額」に基づいて算定される平均賃金額程度(125万円程度)は稼ぐことのできる稼働能力を有しているとして扱われることが多くなっています。


(5) 子どもの私立学校の学費等の取扱い

監護親が子どもと同居し非監護親と別居している場合で子どもが私立学校に通っているときには,私立学校の学費等がかかります。
 非監護親が子どもが私立学校へ進学することを承諾している場合やその収入及び資産の状況等からみて非監護親にこれを負担させることが相当と認められる場合には,養育費の算定にあたり,私立学校の学費等を考慮する必要がある(養育費を増額させる必要がある)という考えが実務上定着しています。
 子どもが私立学校に進学している場合,高い確率でこの要件を充たしてしまうので,私立学校の学費等を考慮する必要があることとなります。
 標準算定表及び改定標準算定表ともに,公立学校の費用分の金額(司法研修所編『養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究』(2019,法曹会)39頁)については既に考慮済であるので,私立学校の学費等からこの公立学校の費用分の金額を控除した残額を,夫婦の基礎収入に応じた金額で按分するという方法により,養育費に学費加算が認められることとなります。


(6) 子どもの学習塾代の取扱い

監護親が子どもと同居し非監護親と別居している場合で子どもが学習塾に通っているときには,子どもの学習塾代がかかります。
 非監護親が子どもが学習塾に通うことを承諾している場合やその収入及び資産の状況等からみて非監護親にこれを負担させることが相当と認められる場合には,養育費の算定にあたって学習塾代を考慮する必要がある(養育費を増額させる必要がある)という考えが実務上定着しています。
 子どもが学習塾に通っている場合,高い確率でこの要件を充たしてしまうので,学習塾代を考慮する必要があることとなります。
 この場合,標準算定表及び改定標準算定表ともに,公立学校の費用分の金額(司法研修所編『養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究』(2019,法曹会)39頁)には学習塾代は含まれていないので,学習塾代については,その全額を,夫婦の基礎収入に応じた金額で按分するという方法により,養育費に学費加算が認められることとなります。


(7) 子どもの大学進学費用の取扱い

 夫婦関係調整(離婚)調停等で養育費を定める場合,将来子どもが大学進学するとき等に備えて,

「第●項記載の子の進学・病気・事故等特別の出費を要する場合は,その負担につき当事者間で別途協議して定める。」

といった条項を設ける例が一般的です。

もっとも,仮にこのような条項を設けなくとも,大学進学等の費用が生じるときにはその負担について非監護親が協議に応じなければならないことに変わりはありません。


 子どもが大学進学する際に,その負担について監護親と非監護親との協議がまとまればよいのですが,協議がまとまらない場合には改めて調停等が必要となります。

その場合,非監護親が子どもの大学進学を承諾している場合やその収入及び資産の状況等からみて収入の多いほう(多くは妻)にこれを負担させることが相当と認められる場合には,監護親に大学進学費用の負担を求めることができるという考え方が一般的です。
 その場合,準算定表及び改定標準算定表ともに,公立の高等学校の費用分の金額(司法研修所編『養育費,婚姻費用の算定に関する実証的研究』(2019,法曹会)39頁)については既に考慮済であるので,大学の学費等からこの公立の高等学校の費用分の金額を控除した残額を,夫婦の基礎収入に応じた金額で按分するという方法により,監護親に対する負担額を算出することが考えられます。


 もっとも,前記(3)で記載したとおり,養育費の支払義務の終期が「満20歳に達する日の属する月まで」というものから「満22歳になった以降の最初の3月」とされることが増加することが予想されることから,これとの兼ね合いもあり,通常生じる養育費とこの大学進学費用とを併せてどの程度監護親に負担させることになるのかについては読み切れないところがあります。


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