6 遺産分割の前提問題

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6 遺産分割の前提問題

(1) 遺産分割の前提問題の意義

  遺産分割手続の進行にあたり,分割方法を定める前に解決しておかなければならない問題のことを,遺産分割の前提問題といいます(片岡武・菅野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分 第3版』(2017,日本加除出版)53~61頁)。

以下の(2)~(5)に記載するとおり,これらの遺産分割の前提問題に争いがあるときには,その争いがある部分について別途確定するまでの間,遺産分割をすることができません。

  この遺産分割の前提問題としては,次の4つの争いがあります。

(ア) 相続人の範囲についての争い

(イ) 遺言書の効力または解釈についての争い

(ウ) 遺産分割協議(書)の効力についての争い

(エ) 遺産の帰属についての争い


(2) 相続人の範囲についての争い

  相続人の範囲は,通常は戸籍謄本等により明らかとなるので,争いとなることはありません。

しかし,次のような場合には,戸籍の記載と実際の相続人の範囲とが一致しなくなります。

(ア) 身分関係の形成に関する事項

例:婚姻取消し,離婚取消し,縁組取消し,離縁取消し,認知,認知の取消し,嫡出否認

(イ) 相続人たる地位の形成に関する事項

例:推定相続人廃除,推定相続人廃除の取消し

(ウ) 相続人の死亡に関する事項

例:失踪宣告,失踪宣告の取消し

(エ) 身分関係の確認に関する事項

例:婚姻無効,離婚無効,縁組無効,離縁無効,親子関係不存在


  前記ア(ア)~(ウ)については,判決または審判によってはじめてその法律関係が形成・確定されるため,遺産分割調停における合意の対象となりません。

また,前記ア(エ)(身分関係の確認に関する事項)についても,遺産分割調停における合意の対象とすることはできるものの,別途この事項に関して訴訟提起がされるとその判断が優先されるので,合意に相当する審判(家事事件手続法第277条)または人事訴訟による解決を促される扱いとなっています。


(3) 遺言書の効力または解釈についての争い

ア 遺言書の効力または解釈についての争いの位置付け

(ア) 特定の遺産について相続人に有効な「相続させる」旨の遺言*2がある場合または特定の者(相続人を含む。)に有効な「遺贈する」旨の遺言*3がある場合,その遺言によって当該特定の遺産については当該相続人または当該受遺者*4に所有権が帰属することとなります。

また,すべての遺産について有効な「相続させる」旨の遺言がある場合またはすべての遺産について有効な「遺贈する」旨の遺言がある場合,遺産分割の対象となる遺産が存在しないこととなって,遺産分割の余地がないこととなります。
 なお,遺産分割の余地がない場合,残りは遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)の余地があるかどうかという問題となります。

(イ) 他方で,遺言が無効とされる場合や,特定の遺産について相続人に「相続させる」旨の遺言と解釈することができない場合には,遺産分割によって処理されることとなります。

(ウ) そのため,遺言書の効力や解釈について争いがある場合,その争いの結果いかんで大きく差が生じることとなります。

ところが,以下に述べるとおり,これらについては遺産分割で決着をはかることができません。

イ 遺言書の効力に争いがある場合

遺言の有効性に争いがあり(例:一方当事者が有効な遺言であると主張するのに対し,他方当事者において,「遺言書」等の記載がなくそもそも遺言書と認められない,遺言書が偽造である,遺言書作成時に判断能力を有していなかった等と主張して対立するような場合),当事者間の合意で解決することができない場合には,遺言無効確認請求訴訟等の民事訴訟で遺言の有効性の判断について確定する必要があり,その確定前に遺産分割を処理することができません。


ウ 遺言書の解釈に争いがある場合

遺言書の解釈に争いがあり(例:「●●を相続させる」という記載について一方当事者が■■を取得させるものであると主張するのに対して他方当事者がそれを争うような場合),当事者間の合意で解決することができない場合には,■■についての所有権移転登記手続を求める内容や■■についての所有権確認を求める内容の民事訴訟で遺言の解釈について確定する必要があり,その確定前に遺産分割を処理することができません。


(4) 遺産分割協議(書)の効力についての争い

 遺産分割協議が有効に成立している場合には,その有効に成立した遺産分割協議を合意解除しない限り,遺産分割が終了していることとなります。


 遺産分割協議(書)の効力に争いがあり,当事者の合意で解決することができない場合には,遺産分割協議(書)無効確認等の民事訴訟で遺産分割協議(書)の有効性の判断について確定する必要があり,その確定前に遺産分割を処理することができません。


(5) 遺産の帰属についての争い

 遺産の帰属(例:預貯金の存否,預貯金残高,現金の金額,不動産が遺産であるか否か)についての争いがある場合,最終的には民事訴訟によって確定されるべきものです。

この点,最大決昭41.3.2民集20巻3号360頁は,遺産の帰属についての争いがある場合であっても,常に民事訴訟による判決の確定を待って遺産分割の審判をすべきものというのではなく,家庭裁判所が,審判手続において前提事項の存否を審理判断した上で,分割の処分を行うことも差し支えないと判断しています。


 しかし,実務上,遺産の帰属についての争いがある場合には,民事訴訟で確定してもらうよう要請されることから,その確定前に遺産分割を処理することができません。



*2 「相続させる」旨の遺言

特定の相続人に対し,遺産全体または特定の遺産を取得させる遺言です。
 遺贈より有利な点があることから,遺言公正証書作成に際して「遺贈する」旨の遺言よりも「相続させる」旨の遺言が推奨されてきたこともあり,この遺言が多くなっています。

*3 「遺贈する」旨の遺言

相続人または相続人以外の者に対し,遺産全体または特定の遺産を無償で取得させる遺言です。
 「遺贈する」旨の遺言は「相続させる」旨の遺言と異なり,相続人以外に対して遺産を取得させることができる一方で,「相続させる」旨の遺言より不利な点があることから,相続人に対して遺産を取得させる場合には「相続させる」旨の遺言を用いるのが一般的です。


*4 「受遺者」

受遺者とは,遺贈を受けた者をいいます。

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