7 遺産分割に関連する付随問題

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7 遺産分割に関連する付随問題

(1) 遺産分割に関連する付随問題の意義

  遺産分割においては,それに関連する付随問題があります(片岡武・菅野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分 第3版』(2017,日本加除出版)61~77頁)。

この付随問題については,遺産分割の調停の対象とすることは可能ですが,調停でまとまらずに審判が下されるときには考慮の対象外となります。
 そのため,当事者間で早急に合意が成立しないときには,遺産分割ではなく別途訴訟等で解決をはかる必要が生じます。


  しばしば問題となる遺産分割の付随問題には,以下の(ア)~(サ)があります。

(ア) 被相続人名義預金口座から引き出された金員(使途不明金を含む。)の問題

(イ) 葬儀費用等の清算の問題

(ウ) 遺産管理費用の清算の問題

(エ) 遺産収益(相続開始後の賃料,配当金など)の分配の問題

(オ) 相続債務の整理・分担の問題

(カ) 相続人固有の共有持分の問題(被相続人との共有不動産)

(キ) 遺言の執行をめぐる問題

(ク) 同族会社の経営権をめぐる問題

(ケ) 老親の扶養・介護をめぐる問題

(コ) 遺産土地の境界・通行をめぐる問題

(サ) 金銭貸借に関する問題

(シ) 祭祀承継の問題


(2) 被相続人名義預金口座から引き出された金員(使途不明金を含む。)の問題

  被相続人の生前または死亡後に,被相続人名義預金口座から金員が引き出されることがあります。


  被相続人の生前に金員が引き出された場合でも死亡後に引き出された場合でも,その引き出された金員を誰が取得したかわからなかったとき(より厳密に言えば誰が取得したか証明できないとき/使途不明)には,その引き出された金員は存在しないものとして遺産分割を進めるしかありません。


  他方,引き出された金員について特定の相続人が取得したことがわかったとき(より厳密に言えば特定の相続人が取得したことを証明できたとき)には,その引出しが被相続人の生前になされたもので,かつ被相続人が当該相続人に対し贈与する意思があったと認められるときには,その引き出した金員については特別受益の問題として処理することとなります。

なお,引き出された金員について相続人以外の者が取得したことがわかったとき(より厳密に言えば相続人以外の者が取得したことを証明できたとき)には,その引出しが被相続人の生前になされたもので,かつ被相続人が当該相続人以外の者に対し贈与する意思があったと認められるときには,その引き出した金員については遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)の問題として処理することとなります。


  引き出された金員について,相続人であるか相続人以外のものであるかを問わず,特定の人物が取得したことがわかったとき(より厳密に言えば特定の人物が取得したことを証明できたとき)で,それが被相続人の生前に,被相続人に無断で引き出されたものであるときは,相続人は当該取得した人物に対し不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求が可能であり,その不当利得または不法行為の問題として処理されるので,遺産分割で処理することができません。


  引き出された金員について,相続人であるか相続人以外のものであるかを問わず,特定の人物が取得したことがわかったとき(より厳密に言えば特定の人物が取得したことを証明できたとき)で,それが被相続人の死亡後に引き出されたものであるときも,従前は,相続人は当該取得した人物に対し不当利得返還請求または不法行為に基づく損害賠償請求が可能であり,その不当利得または不法行為の問題として処理されるので,遺産分割で処理することができませんでした。

しかし,相続法改正により,当該取得した人物以外の共同相続人全員の同意があれば,その取得した財産が遺産分割時に遺産として存在するものとみなした上で遺産分割することができるようになりました(民法第906条の2)。
 この処分された財産を遺産分割の対象とすることのできる条項については令和元年(2019年)7月1日以後に相続が開始する場合に適用されます。


(3) 葬儀費用等の費用の清算の問題

  葬儀費用・四十九日法要等の費用は,相続開始後に生じた債務です。

また,最終的に誰が負担すべきかについては悩ましい問題ながらも,少なくとも一次的には祭祀主宰者(喪主)が負担すべきもので,相続財産に関する費用とも言えません。
 そのため,遺産分割の対象とすることについて当事者間で合意に達することができなければ,不当利得返還請求等の手続で処理すべきものとなり,遺産分割で処理することができません。


  香典については,死者への弔意,遺族へのなぐさめ,葬儀費用など遺族の経済的負担に軽減などを目的とする祭祀主宰者(喪主)や遺族への贈与とされており,これも遺産分割の対象となりません。


  なお,当事者間で葬儀に関する費用を清算する際には,葬儀費用から香典を控除し,他方で香典返しの費用を加えた金額を基準とすることが一般的です。


(4) 遺産管理費用の清算の問題

  遺産管理費用として問題となるものには,固定資産税・都市計画税などの公租公課,遺産が賃借権であるときの賃料(地代),家屋の修理費・改築費,土地改良費,火災保険料の支払,遺産の賃借人に対する立退料などがあります。

なお,ここでいう遺産管理費用は被相続人の死亡後に発生したものを指します。
 被相続人死亡前から固定資産税・都市計画税などの公租公課などを相続人の1人が負担していることも多々ありますが,その清算は特別受益の問題となります。


  遺産管理費用は,相続開始後に生じたもので,遺産とは別個の性質のものですので,遺産分割の対象とすることに当事者間で合意に達することができなければ,不当利得返還請求等の手続で処理すべきものとなり,遺産分割で処理することができません。


(5) 遺産収益(相続開始後の賃料,配当金など)の分配の問題

  相続開始後の賃料,配当金などの遺産収益は,遺産とは別個の共同相続人間の共有財産であると扱われています(最一小判平17.9.8民集59巻7号1931頁)。


  そのため,遺産分割の対象とすることに当事者間で合意に達することができなければ,不当利得返還請求等の手続で処理すべきものとなり,遺産分割で処理することができません。

もっとも,現実には,遺産分割の対象とすることに当事者間で合意に達して遺産分割の中で解決できることが多いように思います。

(6) 相続債務の整理・分担の問題

  遺産分割においては,マンション1棟を相続人の1人が取得する代わりに当該相続人がマンションにおける不動産担保ローンを返済するというような合意が成立することがあります。

しかし,相続人間でこのような合意をしたところで,金融機関が承諾しない限り,他の相続人は債務の負担を免れません。


  そのため,債務を全額負担する相続人が金融機関に対し他の相続人が債務の負担を免れることについての承諾を得ておく必要があります。

金融機関からその承諾を得られない場合,相続人間では「当該相続人が責任をもって支払う。」という合意をするにとどまる(その場合,当該相続人が債務の返済を滞納した場合,他の相続人は金融機関から債務の弁済を求められるリスクが残る)ことになります。


(7) 相続人固有の共有持分の問題(被相続人との共有不動産)

被相続人との共有不動産について,今後に争いが残ることを避けるべく,相続人固有の共有持分も含めて一挙に解決するほうが適切な場合があります。
 もっとも,相続人固有の共有持分の問題は,本来,共有物分割(民法第256条)により解決されるべきもので,遺産分割審判となった場合には,共有物分割も含めて一挙に解決することができません。
 そのため,協議や調停手続の中で当事者間で合意に達することができなければ,遺産分割で処理することができません。


(8) 遺言の執行をめぐる問題

遺言書が存在するが,遺言書を作成当時と相続開始時で相続人の範囲や遺産の内容に変化があり(例えば,遺言書作成当時に存在した自宅の土地建物を,同遺言書上で配偶者に相続させるという条項があるにもかかわらず,その後売却したため相続開始時には自宅の土地建物が残存していないケース),遺言の執行が事実上困難な場合があります。
 このような場合でも,未分割の遺産がなければ遺産分割で処理することはできず,「遺産分割後の紛争調整」や「親族間の紛争調整」で処理されるにとどまります。


(9) 同族会社の経営権をめぐる問題

被相続人の個人会社に対する株式が相続財産となっていても,会社の経営権をめぐる問題については遺産分割の対象とはなりません。


(10) 扶養・介護をめぐる問題

遺産の分割と扶養や介護とは別個の問題ですので,遺産分割の対象とはなりません。


(11) 遺産土地の境界・通行をめぐる問題

遺産となっている土地と相続人固有の土地との間に境界の争いがある場合,それは遺産の範囲の問題となってくることから,遺産分割に先立ち,訴訟等により解決する必要があります。


(12) 祭祀承継の問題

祭祀承継の対象となる祭祀財産は,系譜(家系図など),祭具(位牌,仏壇などの祭祀・礼拝に使用されるもの)及び墳墓(墓石・墓碑など,遺体や遺骨を葬っている設備)からなります。
 祭祀財産は,祖先の祭祀の主宰者に帰属するので(民法第897条),遺産分割の対象とはなりません。

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