9 特別受益

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9 特別受益

(1) 特別受益とは

共同相続人の中に,被相続人から遺贈を受けたり,生前に贈与を受けたりした者がいた場合(これを「特別受益」といいます。)に,相続に際して,この相続人が他の相続人と同じ相続分を受けるとすれば不公平になります。
 そこで,被相続人が持戻し免除の意思表示をしない限り,共同相続人間の公平をはかるために,特別受益を相続分の前渡しとみて,計算上,贈与を相続財産に持ち戻して(加算して)相続分を算定することになります(民法第903条)。

(2) みなし相続財産と具体的相続分の確定方法

ア みなし相続財産

相続開始時に有していた積極財産(債務を控除しないもの)の額に,相続人が受けた贈与(相続分の前渡しと評価されるもの)の額を加算したものを,「みなし相続財産」といいます。


イ 特別受益の持戻しと具体的相続分の確定

特別受益を相続分算定の基礎に算入する計算上の扱いを,「持戻し」といいます。
 この「持戻し」を加えた「みなし相続財産」を基礎にした上で,各共同相続人の相続分を乗じて各相続人の相続分(一応の相続分)を算定し,特別受益を受けた者についてはこの額から特別受益分を控除し,その残額をもって特別受益者が現実に受けるべき相続分(相続開始時点での具体的相続分)を確定することになります。


ウ 具体例

被相続人の遺産が5000万円,その相続人が配偶者A,長男B及び長女Cで長男Bが被相続人の生前に同人から1000万円の贈与を受けていた場合,その1000万円が持戻しの対象となり,みなし相続財産は6000万円(=5000万円+1000万円)となります。
 具体的相続分は,

配偶者A:3000万円(=6000万円×1/2)

長男 B: 500万円(=6000万円×1/4-1000万円)

長女 C:1500万円(=6000万円×1/4)

となります。

(3) 特別受益の種類

ア 特別受益に該当するか否かが問題となるもの

特別受益に該当するものには「遺贈」が,該当するか否かが問題となるものには「生前贈与」があります(片岡武・菅野眞一『家庭裁判所における遺産分割・遺留分 第3版』(2017,日本加除出版)251~259頁)。


イ 遺贈

遺贈は,すべて特別受益にあたります(民法第903条)。
「相続させる」旨の遺言により相続人が取得することとなった財産についても,遺贈と同様に,特別受益にあたります。


ウ 生前贈与

生前贈与が特別受益にあたるかどうかは,以下の(ア)~(エ)のとおりです。

(ア) 婚姻または養子縁組のための贈与

a. 持参金,支度金

一般的には特別受益にあたります。
 しかし,その価額が少額で,被相続人の資産及び生活状況に照らして扶養の一部と認められる場合には,特別受益にはあたりません。
 また,相続人全員に同程度の贈与がある場合にも,持戻し免除の意思表示があったものと認めるべきものとされているので,特別受益にはあたりません。

b. 結納金,挙式費用

一般的には特別受益にはあたりません。

(イ) 学資

一般的には,私立の医科大学の入学金のように特別に多額のものでもない限り,子の資質・能力に応じた親の子に対する扶養義務の履行に基づく支出とみて,特別受益にはあたらないと考えられています。
 また,相続人全員に同程度の贈与がある場合にも,持戻し免除の意思表示があったものと認めるべきものとされているので,特別受益にはあたりません。

(ウ) その他の生計の資本としての贈与

「その他の生計の資本としての贈与」とは,居住用の不動産の贈与またはその取得のための金銭の贈与,営業資金の贈与,借地権の贈与など,生計の基礎として役立つような財産上の給付をいいます。
 「生計の資本」に該当するかどうかは,贈与金額や贈与の趣旨から判断されることとなりますが,相続分の前渡しと認められる程度に高額の金員の贈与は,原則として特別受益になると考えられています。

(エ) 扶養義務に基づく援助

a. お祝い

新築祝い,入学祝いなど,親としての通常の援助の範囲内でなされたお祝いの趣旨に基づく贈与は特別受益にはあたりません。

b. 稼働できない子に対する扶養義務に基づく援助

親が扶養義務に基づき,稼働できない子に対し援助する場合は特別受益にはあたりません。

(4) 生命保険と特別受益

ア  生命保険の取扱い

共同相続人の1人が受取人となっている生命保険における死亡保険金請求権またはこれを行使して取得した死亡保険金は,特別受益にはあたりません。
 しかし,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法第903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,死亡保険金請求権またはこれを行使して取得した死亡保険金は,特別受益に準じて,持戻しの対象となります(最二小決平16.10.29民集58巻7号1979頁)。


イ  「特段の事情が存する」と判断する基準

前掲最二小決平16.10.29にいう,「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法第903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合」か否かについては,相続開始時の相続財産の総額(生命保険における死亡保険金請求権またはこれを行使して取得した死亡保険金を除くもの/以下「」とします。)と生命保険金の総額(以下「」とします。)とを対比したときに,B/Aがどの程度になるかが主な判断の基準とされています。
 B/Aは,前掲最二小決平16.10.29は99.9%,名古屋高決平18.3.27家月58巻10号66頁は61.1%,大阪家堺支審平18.3.22家月58巻10号84頁は6.1%,東京地判平26.3.26ウエストロー・ジャパンは14%,東京地判平26.3.28ウエストロー・ジャパンは5%,東京地判平27.10.2ウエストロー・ジャパンは7.6%であり,前2者の事例では特段の事情が存するとされ,後4者はいずれも特段の事情が存しないとされています。
これらからすれば,B/Aが50%前後となるかどうかが1つのメルクマールになるように思います。


ウ 持戻しの対象となる金額

前掲最二小決平16.10.29にいう,「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法第903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する」と判断されて 持戻しの対象となる場合には,持戻しの対象となる金額は,相続人が保険会社から受け取った保険金額となります。
 もっとも,相続人が保険料の一部を負担していたときには,その負担していた金額について控除されることとなり,持戻しの対象となる金額は,相続人が保険会社から受け取った金額×被相続人が負担した保険料÷保険料総額により算出されます。

(5)特別受益の評価基準時及び現実の取得金額の算出方法

  特別受益があると,相続開始時の遺産額に,生前贈与の金額を加算して「みなし相続財産」を確定して,各共同相続人の相続開始時の相続分を算定とすることとなります。

そのため,遺産分割の基準時が遺産分割時であるのとは異なり,特別受益の評価基準時は相続開始時となります。


  大半の遺産については,相続開始時と遺産分割時とで評価額に差がないことから,その2時点ともに同一の金額とすることで当事者間で合意できることが多くなっています(ただし,不動産の評価について合意に達しない場合には,相続開始時と遺産分割時の2時点について鑑定が必要になることがあります。)。

もっとも,株式については相続開始時・遺産分割時の双方の資料の提出を求められます。


  相続開始よりも相当以前に生前贈与を受けたような場合,特別受益の評価基準時が相続開始時となることから,特別受益の評価基準時時点では思わぬ高額な評価がなされることがあることにも注意が必要です。


  特別受益がある場合の現実の取得金額は,以下の手順によって算出されます。

特別受益の評価額を定める

⇒相続開始時における各相続人の具体的相続分を定める

⇒具体的相続分率(具体的相続分の総額に対して各相続人の具体的相続分が占める割合)を定める

⇒各相続人の取得分を,遺産分割時の遺産評価額×具体的相続分率で算出する

(6) 持戻し免除の意思表示

ア  持戻し免除の意思表示の意義

特別受益を相続分の前渡しとみて,計算上,贈与を相続財産に持ち戻して(加算して)相続分を算定することになるのが原則ですが,被相続人が持戻し免除の意思表示*6をしていた場合には,その意思が尊重されることとなります(民法第703条第3項)。
 この場合,贈与を相続財産に持ち戻すことなく相続分を算定します。


イ  黙示の持戻し免除の意思表示

持戻し免除には,被相続人が持戻し免除の意思を明示している場合だけでなく,黙示の持戻し免除の意思表示が認められる場合もあります。
 黙示の持戻し免除の意思表示があったと認められる場合には,次の(ア)~(エ)があります。

(ア) 家業承継のため,特定の相続人に対して,相続分以外に農地などの財産を相続させる必要がある場合

(イ) 被相続員が生前贈与の見返りに利益を受けている場合

:被相続人との同居のための居宅建設における土地使用の権限付与)

(ウ) 相続人に相続分以上の財産を必要とする特別な事情がある場合

:病気その他の理由により独立した生計を営むことが困難な相続人に対する生活保障目的の贈与,妻の老後の生活を支えるための贈与)

(エ) 相続人全員に贈与や遺贈をしている場合


ウ 居住用不動産の配偶者への遺贈または贈与における持戻し免除の推定

(ア) 相続法改正により,婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が,他の一方に対し,その居住の用に供する建物またはその敷地について遺贈または贈与をしたときに,持戻し免除の意思表示をしたものと推定されることとなりました(民法第903条第4項)。

あくまで「推定」されるだけなので,持戻し免除の意思表示をしていないことが立証されれば,その推定が破られることとなりますが,よほどの事情がなければ上記推定が破られることはないと思われます。

(イ) 上記規定については,遺贈または贈与が令和元年(2019年)7月1日以後になされ,かつ被相続人が死亡したのが令和元年(2019年)7月1日以後であるときに適用されます(附則(平成30年7月13日法律第72号)第4条参照)。


エ 配偶者居住権の遺贈における持戻し免除の推定

(ア) 相続法改正により,被相続人の遺言や,相続人間の話合い(遺産分割協議)等によって,残された配偶者が被相続人の所有する建物(夫婦で共有する建物でもかまいません。)に居住していた場合で,一定の要件を充たすときに,被相続人が亡くなった後も,配偶者が,賃料の負担なくその建物に住み続けることができるという配偶者居住権が新設されました(民法第1028条~第1036条)。

この配偶者居住権新設に伴い,婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が,他の一方に対し,配偶者居住権を遺贈の目的としたときに,持戻し免除の意思表示をしたものと推定されることとなりました(民法第1028条第4項,第903条第4項)。
 あくまで「推定」されるだけなので,持戻し免除の意思表示をしていないことが立証されれば,その推定が破られることとなりますが,よほどの事情がなければ上記推定が破られることはないと思われます。

(イ) 上記規定については,遺贈が令和2年(2020年)4月1日以後になされ,かつ被相続人が死亡したのが令和2年(2020年)4月1日以後であるときに適用されます(附則(平成30年7月13日法律第72号)第2条,第4条参照)。



*6 持戻し免除の意思表示

被相続人が,特別受益分を遺産に持ち戻す必要がないという意思を示すことをいいます。
 被相続人が持戻し免除の意思を明示する場合と,黙示の持戻し免除の意思表示がなされたものと認められる場合とがあります。

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