過払金返還債務の承継に関する最高裁平成23年3月22日判決
2011/03/26
過払金返還請求に関する争点には様々なものがあります
(最高裁判決が下されることによって争点がなくなることもありますが,多くは,最高裁判決の基準に照らした場合にどうなるのか,というのが新たな争点として浮上することになり,我々弁護士も頭を悩ませています。)。
そのうち,近時とりわけ大きな争点となっているのが,利息制限法所定の法定利率を超える利率で貸し付けていた貸金業者A社から貸金業者B社が「A社の顧客に対する貸付債権等の資産」を譲り受けた場合についての問題です。
A社の顧客については,利息制限法所定の法定利率を超える利率で貸し付けているわけですから,所定利息制限法所定の法定利率に引き直して計算すればA社との取引当時から過払金が発生していることが多くなっています
(過払金が発生する理屈については, 「事例説明『債務整理』『1個人の債務整理』『(3)過払金回収』『ウ 過払金回収手続の概要』」 をご覧ください。)。
しかし,A社は,顧客に対する貸付債権等の資産をB社に譲り渡しておりますので,A社に対して過払金返還を求めても,回収するのは著しく困難(または不可能)といってよい状況にあります。
他方,顧客からすれば,A社と長年取引を継続した後,A社の顧客に対する貸付債権を含む資産がB社に譲渡され,そのままB社との取引をA社との取引当時と同様に継続するようになっていたのですから,資力のあるB社に対して過払金返還を求めたいと考えるのが自然です。
ところが,A社の資産を譲り受けたB社は,「自社はA社の資産を譲り受けただけであって,A社について発生していた過払金返還債務は負わない。」と主張することが多くなっています。
このような場合に,A社の資産を譲り受けたB社に対して,A社の資産だけでなく過払金返還債務も承継しているとして過払金返還を求めることができるか,ということが近時よく争われています
(なお,大手の消費者金融会社であるCFJ合同会社(従前の商号:CFJ株式会社/消費者金融会社3社(ディックファイナンス株式会社,アイク株式会社,株式会社ユニマットライフ)の合併で誕生した会社)が,従前は株式会社マルフクやタイヘイ株式会社から譲り受けた債権については過払金の承継を認めて支払をしていたにもかかわらず,近時,過払金の承継を争う姿勢に転じてから,大きな争点として顕在化するようになっています。)。
この争点について,CFJ合同会社がタイヘイ株式会社から資産を譲り受けた事案についてCFJ合同会社が過払金債務を承継するかについて,つい先日,最高裁判決が下されました。
判決の全文については,「最高裁平成23年3月22日第三小法廷判決(平成22(受)1238) 」をご参照ください。
上記最高裁判決は,
「貸金業者(以下「譲渡業者」という。)が貸金債権を一括して他の貸金業者(以下「譲受業者」という。)に譲渡する旨の合意をした場合において,譲渡業者の有する資産のうち何が譲渡の対象であるかは,上記合意の内容いかんによるというべきであり,それが営業譲渡の性質を有するときであっても,借主と譲渡業者との間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位が譲受業者に当然に移転すると解することはできないところ,上記のとおり,本件譲渡契約は,上告人が本件債務を承継しない旨を明確に定めるのであって,これが,被上告人とAとの間の金銭消費貸借取引に係る契約上の地位の移転を内容とするものと解する余地もない。」
などと述べて,上記事案について過払金の承継を否定的に捉えました
(なお,破棄差戻判決であったので,今後,この事件は名古屋高裁でさらに審理が続けられることになります。)。
上記最高裁判決により,顧客は,タイヘイ株式会社との取引当時に発生していた過払金の返還をCFJ合同会社に対して行うことができなくなる可能性が強まったといえます。
もっとも,上記最高裁判決が他の事案にどこまで影響を及ぼすかについては,現時点ではなかなか予測が困難であり,今後の裁判例の流れを踏まえる必要があります。
ただ,過払金回収にたずさわる弁護士として,上記最高裁判決を踏まえた主張・立証をしていかなければならない必要性を痛感いたします。
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