「相続させる」旨の遺言の解釈に関する最高裁平成23年2月2日判決
2011/04/12
被相続人(亡くなられた方)が生前に遺言書を作成されていた場合で,遺言書が形式等に不備がないものであっても,遺言書に記載された意味(解釈)が問題となるケースは多々あります(実際,私自身もそのような訴訟を扱ったこともあります。)。
今般,最高裁平成23年2月2日第三小法廷判決において,「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,遺言者が代襲者等に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生じない,とする判断が下されましたので,ご紹介します。
判決全文については, 「最高裁平成23年2月2日第三小法廷判決(平成21(受)1260) 」 をご覧ください。
上記最高裁判決の事案は,被相続人Aの子である被上告人が,遺産の全部をAのもう一人の子であるBに相続させる旨のAの遺言は,BがAより先に死亡したことにより効力を生ぜず,被上告人がAの遺産につき法定相続分に相当する持分を取得したと主張して,Bの子である上告人らに対し,Aが持分を有していた不動産につき被上告人が上記法定相続分に相当する持分等を有することの確認を求めている,というものでした。
上記最高裁判決は,次のように述べています。
「被相続人の遺産の承継に関する遺言をする者は,一般に,各推定相続人との関係においては,その者と各推定相続人との身分関係及び生活関係,各推定相続人の現在及び将来の生活状況及び資産その他の経済力,特定の不動産その他の遺産についての特定の推定相続人の関わりあいの有無,程度等諸般の事情を考慮して遺言をするものである。
このことは,遺産を特定の推定相続人に単独で相続させる旨の遺産分割の方法を指定し,当該遺産が遺言者の死亡の時に直ちに相続により当該推定相続人に承継される効力を有する『相続させる』旨の遺言がされる場合であっても異なるものではなく,このような『相続させる』旨の遺言をした遺言者は,通常,遺言時における特定の推定相続人に当該遺産を取得させる意思を有するにとどまるものと解される。
したがって,上記のような「相続させる」旨の遺言は,当該遺言により遺産を相続させるものとされた推定相続人が遺言者の死亡以前に死亡した場合には,当該「相続させる」旨の遺言に係る条項と遺言書の他の記載との関係,遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などから,遺言者が,上記の場合には,当該推定相続人の代襲者その他の者に遺産を相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り,その効力を生ずることはないと解するのが相当である。」
その上で,次のように述べています。
「前記事実関係によれば,BはAの死亡以前に死亡したものであり,本件遺言書には,Aの遺産全部をBに相続させる旨を記載した条項及び遺言執行者の指定に係る条項のわずか2か条しかなく,BがAの死亡以前に死亡した場合にBが承継すべきであった遺産をB以外の者に承継させる意思を推知させる条項はない上,本件遺言書作成当時,Aが上記の場合に遺産を承継する者についての考慮をしていなかったことは所論も前提としているところであるから,上記特段の事情があるとはいえず,本件遺言は,その効力を生ずることはないというべきである。」
たとえば,長男・二男と2人の子どもがいる父親が,よりかわいがっている二男に全部の財産(遺産)を相続させるという遺言書を記載したからといって,父親が亡くなった時点では二男が既に亡くなっていたというケースのときに,長男を差し置いて,当然に二男の子どもに全部の財産(遺産)を相続させるという意思があるかといえば,当然あるとまではいえないでしょう。
遺言が法定相続分という公平な分配を破ることもあるものである以上,二男が亡くなっていたときにはその子どもに財産を譲るということが記載されていなければ,そのように遺言を解釈することは許されないと思います。
そのため,私は,上記最高裁判決は,当然の判断をしただけというように思いますが,「最高裁は,今後の無用な争いを防ぐ意味でも,そのような『当然の判断』を示す意味があると考えた。」ともいえるかと思います。
なお,本件のように,遺言者の死後になるべく紛争が生じないような遺言書を作成されることを望まれる場合には,遺言書を作成される前に弁護士に相談されることをおすすめいたします。
弁護士は,遺言書の解釈等を巡って紛争が生じた場合にどのように処理するのかという紛争解決の専門家ですので,そのような紛争が生じないようにするためにはどうしたらよいかという事柄についても他の専門家以上に把握しているように思うからです。
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