労組法上の「労働者」該当性についての最高裁平成23年4月12日判決 2
2011/04/18
不当労働行為として救済される対象となる労働組合法上の「労働者」といえるかどうかが争点となった事件についての平成23年4月12日の2件の最高裁判のもう1つは,住宅設備機器の修理補修等を業とする会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する者が,当該会社との関係において労働組合法上の労働者に当たるとされた事例についてのものです。
判決全文は,「最高裁第三小法廷平成23年4月12日判決(平成21(行ヒ)473) 」 をご覧ください。
裁判等の経過は以下のとおりです。
住宅設備機器の修理補修等を業とする会社(INAX(現:LIXIL)の子会社)が,その会社と業務委託契約を締結してその修理補修等の業務に従事する者(カスタマーエンジニア=CE)が加入した労働組合である上告補助参加人らからCEの労働条件の変更等を議題とする団体交渉の申入れを受け,CEは被上告人の労働者に当たらないとして上記申入れを拒絶しました。
これに対して労働組合が救済申立てをしました。
(1) 大阪府労働委員会
大阪府労働委員会は,上記申入れに係る団体交渉に応じないことは不当労働行為に該当するとして上記団体交渉に応ずべきこと等を命じました。
(2) 中央労働委員会
大阪府労働委員会の判断に対して会社が再審査の申立てをしたところ,中央労働委員会が棄却するとの命令を出しました。
会社がその取消しを求めて提訴しました。
(3) 東京地裁(第1審)
東京地裁平成21年4月22日判決(平成19(行ウ)721)は,CEは,労組法上の「労働者」にあたるとした上で,本件各団体交渉申し入れに係る議題は,会社に処分可能なものであるから、義務的団交事項にあたるとして,組合からの本件各団体交渉申し入れを拒否した原告の対応は不当労働行為であり,これを認めた本件救済命令が違法であるとはいえないとして請求を棄却しました。
(4) 東京高裁(控訴審)
東京高裁平成21年9月16日判決(平成21(行コ)192)は,一転して,システムエンジニアの基本的性格は,控訴人会社の業務受託者であり,労働組合法上の労働者に当たるということができないから,控訴人会社が団体交渉に応じなかったとしても,これをもって不当労働行為に該当するということはできず,救済命令は不当であって取り消されるべきであるから,以上と異なる原判決は相当でないとして,これを取り消しました。
この事例において,上記最高裁判決は,次のように述べています。
「前記事実関係等によれば,被上告人の従業員のうち,被上告人の主たる事業であるCの住宅設備機器に係る修理補修業務を現実に行う可能性がある者はごく一部であって,被上告人は,主として約590名いるCEをライセンス制度やランキング制度の下で管理し,全国の担当地域に配置を割り振って日常的な修理補修等の業務に対応させていたものである上,各CEと調整しつつその業務日及び休日を指定し,日曜日及び祝日についても各CEが交替で業務を担当するよう要請していたというのであるから,CEは,被上告人の上記事業の遂行に不可欠な労働力として,その恒常的な確保のために被上告人の組織に組み入れられていたものとみるのが相当である。
また,CEと被上告人との間の業務委託契約の内容は,被上告人の定めた『業務委託に関する覚書』によって規律されており,個別の修理補修等の依頼内容をCEの側で変更する余地がなかったことも明らかであるから,被上告人がCEとの間の契約内容を一方的に決定していたものというべきである。
さらに,CEの報酬は,CEが被上告人による個別の業務委託に応じて修理補修等を行った場合に,被上告人が商品や修理内容に従ってあらかじめ決定した顧客等に対する請求金額に,当該CEにつき被上告人が決定した級ごとに定められた一定率を乗じ,これに時間外手当等に相当する金額を加算する方法で支払われていたのであるから,労務の提供の対価としての性質を有するものということができる。
加えて,被上告人から修理補修等の依頼を受けた場合,CEは業務を直ちに遂行するものとされ,原則的な依頼方法である修理依頼データの送信を受けた場合にCEが承諾拒否通知を行う割合は1%弱であったというのであって,業務委託契約の存続期間は1年間で被上告人に異議があれば更新されないものとされていたこと,各CEの報酬額は当該CEにつき被上告人が毎年決定する級によって差が生じており,その担当地域も被上告人が決定していたこと等にも照らすと,たといCEが承諾拒否を理由に債務不履行責任を追及されることがなかったとしても,各当事者の認識や契約の実際の運用においては,CEは,基本的に被上告人による個別の修理補修等の依頼に応ずべき関係にあったものとみるのが相当である。
しかも,CEは,被上告人が指定した担当地域内において,被上告人からの依頼に係る顧客先で修理補修等の業務を行うものであり,原則として業務日の午前8時半から午後7時までは被上告人から発注連絡を受けることになっていた上,顧客先に赴いて上記の業務を行う際,Cの子会社による作業であることを示すため,被上告人の制服を着用し,その名刺を携行しており,業務終了時には業務内容等に関する所定の様式のサービス報告書を被上告人に送付するものとされていたほか,Cのブランドイメージを損ねないよう,全国的な技術水準の確保のため,修理補修等の作業手順や被上告人への報告方法に加え,CEとしての心構えや役割,接客態度等までが記載された各種のマニュアルの配布を受け,これに基づく業務の遂行を求められていたというのであるから,CEは,被上告人の指定する業務遂行方法に従い,その指揮監督の下に労務の提供を行っており,かつ,その業務について場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていたものということができる。
なお,原審は,CEは独自に営業活動を行って収益を上げることも認められていたともいうが,前記事実関係等によれば,平均的なCEにとって独自の営業活動を行う時間的余裕は乏しかったものと推認される上,記録によっても,CEが自ら営業主体となって修理補修を行っていた例はほとんど存在していなかったことがうかがわれるのであって,そのような例外的な事象を重視することは相当とはいえない。
以上の諸事情を総合考慮すれば,CEは,被上告人との関係において労働組合法上の労働者に当たると解するのが相当である。」
その上で,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があって破棄を免れないとした上で,次のように述べています。
「前記事実関係等によれば,本件議題はいずれもCEの労働条件その他の待遇又は上告補助参加人らと被上告人との間の団体的労使関係の運営に関する事項であって,かつ,被上告人が決定することができるものと解されるから,被上告人が正当な理由なく上告補助参加人らとの団体交渉を拒否することは許されず,CEが労働組合法上の労働者に当たらないとの理由でこれを拒否した被上告人の行為は,労働組合法7条2号の不当労働行為を構成するものというべきである。」
なお,裁判官田原睦夫による,次のとおり詳細な補足意見があります。
「本件では,被上告人は,CEは独立した事業者であり,被上告人とCEとの契約関係は,被上告人が行う業務の一部の業務委託であって一般の外注契約関係と異ならないと主張し,原審は,その主張を認めてCEは労働組合法上の労働者には該たらないと認定していることに鑑み,以下のとおり補足意見を述べる。
原判決の認定によれば,被上告人は,Cブランドの住宅設備機器のアフターメンテナンスを主力事業とする会社であり,Cのブランドイメージを低下させないよう全国一律に一定水準の技術をもって確実に修理補修等を行うことを目的として,認定制度やランキング制度を伴うCE制度を導入した。
上記制度の趣旨からすれば,本来,CE制度の対象者は,CE制度の求める技術者(以下『有資格者』という。)を擁して,その制度の求める業務を提供する能力を備えているならば,法人であるか個人事業者であるかを問わず,また,その者がCEとしての業務以外に主たる業務を有していても差し支えないことになる。
また,その者が有資格者を複数擁しているときは,業務委託契約書に定める管轄営業所及びサービスセンターを複数選定することもなし得ることになる。
このように,CE制度の対象者がCE制度の求める業務以外に主たる業務を行っていたり,CE制度の対象者が複数の有資格者を雇傭し複数の管轄営業所やサービスセンターを担当しているような場合には,少なくとも当該事業者と被上告人との契約関係は純然たる業務委託契約であって,一般の外注契約関係と異ならないものといえよう。
ところが,本件では,記録上,被上告人のCE募集広告の一部に,『個人,法人共に可』との記載は見られるものの,被上告人と本件業務委託契約を締結しているCE中に法人が含まれるとの主張はない。
また,本件で証拠として提出されている業務委託契約書(第1審判決・別紙4)の様式及びその内容は,専ら有資格者が自ら個人として直接の受託者となる場合を予定するものであり,過去においてもこれと異なる態様で本件業務委託契約が締結されたことをうかがわせる証拠は存しない。
そして,法廷意見において指摘するとおり,本件業務委託契約の内容及びその委託業務履行の実態からして,CEがCEとしての業務以外に主たる業務を有していることもうかがわれない。
さらに,それに加えて,被上告人がインターネットに掲示していたCEの募集広告では,『勤務地』,『勤務時間』,『給与』,『待遇・福利厚生』,『休日・休暇』等の項目の記載があり,それらの各項目からして,その募集広告は,被上告人が行う事業に係る外注業者を募集する内容とは到底いえず,また,本件業務委託契約の内容を補充する『CEライセンス制度』の説明文中には,『福利厚生及び功労的特典』として『健康診断』,『慶弔会』,『リフレッシュ休暇手当』(契約10年目以後5年ごとに金券を支給するもの),『休業保障』(忌引き)等,独立した事業者との契約内容にそぐわない事項が定められている。
また,被上告人がCEに携行させていた名刺には,氏名の肩書きに『○○サービスセンター』と記載し,氏名の下部には被上告人の会社名のみが記載されており,平成14年ころまでCEに携行させていた身分証明書には,『上記の者は,当社従業員であることを証明します』と記載して,被上告人の会社名を記載して押印したものが発行されていた(その後『上記の者は当社が製品のメンテナンス業務を委託する者であることを証明します』との証明書に変更されていると認められる)のである。
以上の事実関係からすれば,CEが労働組合法上の労働者に該当することは明らかであって,それを否定する余地はないというべきである。」
本件や1で紹介した事例のように,実質的には会社の労働者のような立場にあるにもかかわらず,「個人事業主」という形で会社と契約するという形態は非常に多くみられます。
今回の2件の最高裁判決は,労働組合法上の「労働者」に該当するか否かという判断において,「契約」の表面的な内容ではなく,その「実態」を重視したもので,企業(経営者)側は,外注業者との契約という体裁を整えているからといって安易に団体交渉拒絶等を行えないことが明らかになったといえます。
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