第7回高校生模擬裁判選手権 7
2013/08/24
高校生模擬裁判選手権においては,検察官請求証人尋問,被告人質問が山場となることは,実際の刑事裁判の場合と異なりません。
では,証人尋問・被告人質問では,どのような点に気をつければいいのでしょうか。
これには,以下の諸点が考えられます。
(1)冒頭陳述,証人尋問・被告人質問,論告・弁論の位置付けの把握
まず,なによりも,冒頭陳述,証人尋問・被告人質問,論告・弁論がどのように位置付けられているのかという点を意識するということが求められます。
この点については, 8月4日(土)第6回高校生模擬裁判選手権開催 5 に詳述しておりますが,証人尋問や被告人質問においては,論告・弁論で何を訴えたいかを見据えて,論告・弁論で訴えたいことを引き出すために行う必要があるので,証人尋問・被告人質問においては,この点をまず意識することが求められます。
(2)証拠構造の把握
題材となっている事件において,何が検察官の立証の柱なのかを意識することが求められます。
その柱となる部分の中で,他の証拠がどのように関係してくるか,証人尋問・被告人質問はどのように影響してくるのか,というのを考える必要があります。
今回の模擬裁判選手権における題材では,検察官の立証の柱は,次の2点といえるでしょう。
① 博を殴るのに用いられた(凶器の)ガラス製灰皿に被告人の指紋が付着しているこ
と
(しかも,この指紋の付き方が,この灰皿を用いて博を殴ったのでなければ付着しよ
うのないものとなっている)
② 死亡推定時刻の直前に,被告人が博に対して怒鳴りつける声を見田奈々子が聞
いたこと
検察官からすれば,
①に関しては,被告人質問において,指紋の付き方が,この灰皿を用いて博を殴ったのでなければ付着しようのないものとなっていることが明らかになるように尋問したい(少なくとも被告人の弁明が不自然・不合理であることが浮かび上がるように尋問したい),
②に関しては,検察官請求の見田奈々子証人尋問において,死亡推定時刻の直前に,被告人が博に対して怒鳴りつける声を見田奈々子が聞いたという証言が信用できるものであることが明らかになるように尋問したい,
他方,弁護人からすれば,
①に関しては,被告人質問において,灰皿を掃除する際にこのような指紋が付着することが決して不自然・不合理なものでないことが浮かび上がるように尋問したい,
②に関しては,被告人が博に対して怒鳴りつける声を見田奈々子が聞いたとする証言が信用できないことが明らかになるように尋問したい,
ということとなります。
(3)供述の信用性を判断するために着目すべき点の把握
前記(2)記載のとおり,検察官の立証の柱となる事項についての供述の信用性を問題とすべきことがわかったら,供述の信用性がどのように判断されるかその基準を把握した上で,尋問すべきことを考える必要があります。
供述の信用性を判断するために着目すべき点として,山室惠編『刑事尋問技術』24頁(ぎょうせい,2000)には,以下の事項が掲げられています。
ア その供述が一貫・安定しているか,変遷・動揺しているか。
供述が変遷している場合には,その変遷に合理的な理由があるか。
イ その供述が客観的な事実と合致しているか,矛盾しているか。
ウ その供述が他の供述証拠と符合しているか。
エ その供述が具体的,詳細,自然,合理的であるか,その供述に迫真性,臨場性
があるか。
オ その供述の根拠は何か。
カ 供述の立場はどうか。嘘をついたり,隠したりする動機があるか。
供述の信用性を判断するこれらの要素がうまく反映されるように尋問を行うとよいこととなります。
(4)目撃証言の特性の把握
供述の信用性を判断するための一般的な基準としては,前記(3)記載のとおりです。
しかし,見田奈々子証人の「被告人が博に対して怒鳴りつける声を見田奈々子が聞いたとする証言」については,この一般的な基準のほかに,目撃証言としての以下の特性を把握し,それを踏まえた尋問を心がける必要があります。
前掲『刑事尋問技術』133~136頁には,以下のような事項に注意すべきことが掲げられています。
目撃者がその目撃内容を言語等により再現するためには,知覚・記憶・表現(叙述)の各過程を踏むこととなるので,その各過程に誤りが混入しているかどうかのチェックが必要となります。
そこで,ア「観察の正確性」,イ「記憶の正確性」,ウ「表現(叙述)の正確性」の3点を考慮する必要があります。
ア 観察の正確性
観察の正確性については,客観的条件と主観的条件の両面からのチェックが欠かせません。
客観的条件についてみると,目撃者が,観察時においてどのような客観的条件下に置かれていたかということが,その観察の正確性を左右します。
特に,目撃した場所の明暗・距離関係,見通し状況,観察時間の長短などが重要となります。
主観的条件についてみると,目撃者が,観察時においてどのような主観的条件下に置かれていたかということが,その観察の正確性を左右します。
同じ状況を目撃したとしても,目撃者の個人差によりその正確性に差異が生じる,例えば,目撃者の資力等の観察能力には個人差があり,また,目撃時の心理状態,観察の意識性の有無等もその正確性に大きな影響を与えます。
イ 記憶の正確性
目撃者が目撃対象を正確に観察したにもかかわらず,その記憶が変容して正確性が損なわれる場合があります。
これには,日時が経過した場合や記憶の固定に関し他からの影響があった場合が考えられます。
ウ 表現(叙述)の正確性
目撃者が目撃対象を正確に観察・記憶していたとしても,公判廷で証言する場合,その表現が不適切であるため,その正確性が損なわれる場合があります。
その目撃証人が,具体的事実をそのまま表現するのではなく,価値観の含まれた抽象的な表現をする場合,具体的事実を証言させる必要が生じます。
また,既に前記(3)に記載したとおりですが,目撃証言をなす証人の立場も考慮する必要が生じます。
(5)尋問における一般的ルールの把握
前記(1)~(4)を踏まえて尋問することになるわけですが,具体的に何をどのように尋問するかに関しては,尋問における一般的ルールを把握する必要があります。
基本的には,一問一答形式で,具体的な事実を質問する(刑事訴訟規則199条の13第1項参照)ということになるのですが,詳細については,昨年の当ブログ 8月4日(土)第6回高校生模擬裁判選手権開催 11 をご覧下さい。
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