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横浜弁護士会川崎支部と地域司法 7

横浜弁護士会川崎支部と地域司法 7

2011/12/12

 労働審判を川崎支部でも実施すべきことについては,再三触れている「神奈川の司法10の提案 2010」に詳しいので,以下,その記載を引用します。

6 労働審判を支部でも取り扱えるようにしよう!

労働審判制度とは
 労働審判制度は,急激に増加した個別労働関係民事紛争を訴訟よりも短期間に,かつ紛争の実情に即して解決するため,2006 年(平成 18 年)4 月から開始された新しい紛争解決制度です。
 個別労働関係民事紛争とは,労働者と使用者間の個別労働契約において生じた民事紛争をいい,たとえば,解雇,賃金未払いなどの労働条件に関する紛争や労災事故による労働者の使用者に対する安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求など幅広い紛争を指します。

 労働審判制度は,労働審判官(裁判官)1 名と労働審判員 2 名で構成される労働審判委員会が原則として 3 回以内の期日で結論を出し,その間,適宜調停を行うことができるとされていることに大きな特徴があります。

 そして,2006 年(平成 18 年)4 月から 2009 年(平成 21 年)6 月までの全国の労働審判事件(既済事件)5290 件のうち,第 2 回期日までに終了した事件が約 61.6%(取下げを含む),申立から終局までの平均審理日数は 74.0 日,調停が成立した事件は 3621 件(68.4%),労働審判によって終局した事件は 1010 件(19.1%)であり(平成 21 年 8 月 10 日集計による最高裁判所行政局調べの概数値),非常に迅速な解決が図られていると言えます。

なぜ労働審判を支部で行う必要があるのでしょうか
 現在,東京地裁立川支部と福岡地裁小倉支部を除き,労働審判は,地裁本庁でしか実施されておらず,支部では実施されていません。

(1)労働審判の新受件数の推移
 2006 年(平成 18 年)4 月から 2009 年(平成 21 年)12 月までの神奈川県における労働審判事件の新受件数は,次の表のとおりです。

平成 18 年 平成 19 年 平成 20年 平成 21 年 合   計
77 96 155 256 584

 このように神奈川県における労働審判の事件数は,急激な増加傾向にあり,本庁のみで対処するのではなく,どの地域でも対応できるようにする必要があるといえます。

 (2)他の地域との比較(高裁所在地)
平成 18 年 平成 19 年 平成 20年 平成 21 年 合   計
横 浜 77 96 155 256 584
東 京 258 485 711 1140 2594
大 阪 84 105 139 299 627
名古屋 54 111 124 275 564
広 島 15 18 35 59 127
福 岡 29 66 121 208 424
仙 台 16 35 32 53 136
札 幌 34 49 69 89 241
高 松 3 2 3 12 20

 このように,神奈川県における労働審判の事件数は,平成 21 年度は,東京,大阪,名古屋に次いで 4 番目に多く,これまでの総数では,東京,大阪についで 3 番目に多い結果となっており,本庁のみで対処するのではなく,どの地域でも対応できるようにする必要があるといえます。

 (3)相談件数からみた増加傾向
 さらに,全国の個別労働関係民事紛争に関する相談は 2002 年(平成 14 年)度103,194 件から 2007 年(平成 19 年)度 197,904 件と 2 倍近く増加しており,潜在的な需要は非常に多いことが推測されます。

 (4)企業数から見た不均衡
 神奈川県下の事業所数は合計 288,962 箇所であり,本庁管轄地域では 152,072 箇所,川崎支部管轄地域では 40,260 箇所,県西支部管轄地域では 50,052 箇所,横須賀支部管轄地域では 19,178 箇所,相模原支部管轄地域では 27,400 箇所となっており(総務省統計局平成 18 年事業所・企業統計調査統計表 第 1 表),事業者数から見ても,労働審判を本庁のみで行うのは,不均衡な感が拭えません。

 (5)移動に要する時間と費用
 また,雇用関係は地域を問わず存在しますが,支部管内の住民が個別労働関係民事紛争の迅速な解決を求めて労働審判を利用しようと考えても,地裁本庁でしか実施されないと,例えば,小田原支部の場合,乗り換え時間を考慮すると 95 分であり,JR 小田原駅から横浜地裁の最寄り駅であるJR関内駅までは,片道で950 円かかり,移動に要する時間や費用等から利用を躊躇せざるを得ないことも考えられ,本庁管内に居住する住民と比較して不公平ですし,裁判を受ける権利の保障の観点からも問題です。

 (6)労働審判の波及効果
 さらに,労働審判制度が定着すると,「そこに参加している労働審判員が,法律や判例等に応じて労働紛争を解決する手法に通暁することになり,そういった労働審判員の経験者が労働組合や企業に戻り,そこで労使自治による紛争解決の土台を形成してくれることも各方面で期待されている」(林俊之最高裁事務総局行政局第一課長「労働審判制度の最近の運営状況について」中央労働時報第 1079 号 2 頁)が,これは,支部管内でも等しく妥当する要請であると思われます。

 弁護士会の取り組み
 以上により,弁護士も労働審判制度をより積極的に利用するとともに,地裁支部でも労働審判を取り扱うようにすべきです。

 この点について,最高裁判所行政局から日本弁護士連合会に対し,同制度を始めるに当たり,地裁本庁に集約していたのは,労働知識に精通した裁判員の確保が必要であったことと,新しい制度のためノウハウの蓄積が必要であったことが大きな理由であったところ,事件数も増え,解決率も高く,ノウハウも蓄積できたことから,2010 年(平成 22 年)4 月から支部でも事務を取り扱う旨の説明があり,まず東京地裁立川支部と福岡地裁小倉支部で取扱いが始まりました。
 そして,神奈川県では,川崎支部と小田原支部が検討対象となっています。

 しかし,検討対象となっている川崎支部と小田原支部のみならず,横須賀支部,相模原支部でも労働審判の取扱いを開始すべきです。」

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