1 交通事故事件について弁護士に依頼されたら
交通事故事件について弁護士に依頼されたら,以下の段階に応じて次のようなことを行います。
後遺障害等級が認定され,自動車任意保険会社から賠償額について提示された後の段階や,自動車任意保険会社との交渉が煮詰まってきた段階になった後でも,依頼されるのは決して遅くはありませんので,お気軽にご相談ください。
(1) 交通事故に遭われてから「症状固定」までの段階
交通事故に遭われてから後遺障害等級獲得までの間は,基本的に被害者の方の入通院が続いている状態にあります。
その間,治療を受けている病院が「健康保険や労災保険は使えない。」などといって健康保険・労災保険の利用を渋るようなら,医療機関と折衝をすることもあります。
また,この間,自動車任意保険会社が,治療の必要性がないとしてこれ以上の治療費は支払わないなどといってきたり,その費用は認められないといってきたりした場合(病院の個室代,ベビーシッター代等についてはよく支払を渋られます。)について,自動車任意保険会社との間で交渉を行います。
さらに,当座の生活資金等にも困るような場合には,仮払い仮処分をほのめかして一時金を支払ってもらうこともあります(それでも効果がなければ実際に仮払い仮処分を行います。)。
加えて,より高い後遺障害等級獲得に向けて,診断医に被害者の方に生じている症状について詳しく書いてもらうよう指導・助言を行います。
なお,「症状固定」の概念については,「5 交通事故事件の概要」」の「(2)後遺障害事案における『症状固定』概念の重要性」をご参照ください。」
(2) 症状固定から自賠責保険の被害者請求までの段階
症状固定等に基づいて後遺障害診断書を取得した後は,自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)に基づく被害者請求を行います。
被害者請求に先立ち,自動車任意保険会社による事前認定を経ている場合には被害者請求が素早く処理されますので,事前認定を経た上で被害者請求を行う場合もあります。
被害者請求における後遺障害等級認定に不満が残る場合には,異議申立てを行います。
なお,被害者の方ご自身が弁護士に依頼せずに,自動車任意保険会社による事前認定を経ただけで自動車任意保険会社と交渉を行った場合,その保険会社の基準に基づくきわめて低額な賠償金しか受領できないことが多くなっています。
(3) 自賠責保険の被害者請求から自動車任意保険会社との交渉・訴訟までの段階
自賠責保険の被害者請求が済んだら,被害者請求により受領した自賠責保険金では足りない損害について,自動車任意保険会社との間で交渉を行います。
その交渉が決裂した場合等には,加害者(自動車の所有者等を含む場合があります。)を被告として訴訟を提起します。
訴訟において和解または判決取得により賠償金を獲得します。
(4) 交通事故事件の刑事裁判における協力
交通事故により被害者の方が亡くなられた場合,被害者の方に重篤な後遺症(後遺障害)が生じた場合,被害者の方やそのご親族(またはご遺族)の方は,加害者の刑事裁判手続にも参加したいという思いを抱えられることがあります。
このような場合,被害者の方等は,被害者参加制度を利用し,公判期日等に出席するとともに、証人尋問、被告人質問及び論告を行うことができますが,そのお手伝いをさせていただくことも可能です。
健康保険・労災保険の利用
患者には,自由診療(日本の医療保険制度を使用しない保険外診療)か,健康保険(労災保険)かのどちらを選ぶかの決定権があります。
そのため,医師(病院)側が自由診療を勧めてきても,それを拒絶し,健康保険(労災保険)を選ぶことができます。
一般に,自由診療の場合は健康保険(労災保険)を使う場合よりも治療費等が高額になりがちであり,①交通事故被害者の方の過失割合が高く,治療費等の全額については加害者側から支払われないような場合や,②加害者が任意保険に加入していないような場合には,健康保険(労災保険)を使う場合に比べて莫大な費用を負担せざるを得ないことがありますので,必ず健康保険(労災保険)を使うようにして下さい。
なお,健康保険と労災保険の区別については,交通事故が業務中や通勤途中で生じた場合には労災保険,それ以外には健康保険,ということになります。
仮払い仮処分
「仮払い仮処分」とは,加害者等損害賠償義務を負担する者または保険会社に対する損害賠償金または保険金について,簡易迅速な手続で損害賠償金の一部を支払ってもらうための手続です(民事保全法23条2項)。
判決による最終的解決とは異なり,判決で決着がつくまでの間の暫定的な仮の処分ですが,これにより訴訟よりもかなり短期間で一応の満足を得られることになります。
仮払い仮処分が認められたにもかかわらず自動車任意保険会社が支払を拒絶したという話は聞いたことがありませんし,仮払い仮処分をほのめかすだけで効果があり,それだけで一定額の支払を受けられることが多くなっています。
自賠責保険の被害者請求
交通事故事件においては,加害者の加入する自動車任意保険会社に賠償の問題をすべて委ねる必要はなく,自動車損害賠償保障法(自賠法)16条1項により,自賠責保険金については被害者請求により取得することが認められています。
ただし,自賠責保険金は支払限度額が決まっているため(死亡事案について3,000万円等),それを超える賠償額を獲得しようとする場合には,自賠責保険の被害者請求だけでは済まないことになります。
被害者参加制度
被害者参加制度とは,被害者等(被害者または被害者が死亡した場合もしくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者,直系の親族もしくは兄弟姉妹)もしくは被害者の方の法定代理人の方が,検察官に対して被害者参加を申し出て,裁判所が参加を認めたときは,公判期日等に出席するとともに,証人尋問,被告人質問及び論告を行うことができる制度で(刑事訴訟法316条の33以下),平成20年12月1日以後起訴された事件であれば利用可能です。
被害者参加制度の対象となる事件は,以下のとおりです(刑事訴訟法316条の33第1項)。
① 故意の犯罪行為により人を死傷させた罪(同1号)
例:殺人罪,傷害罪,傷害致死罪,危険運転致死罪など
② 刑法176条から178条まで,211条,220条または224条から227条までの罪(同2号)
例:強制わいせつ罪,強姦罪,準強制わいせつ及び準強姦罪,業務上過失致死傷罪,自動車運転過失致死傷罪,逮捕及び監禁罪,未成年者略取誘拐罪,営利目的等略取誘拐罪,身代金目的略取誘拐罪等,所在国外移送目的略取誘拐罪,人身売買罪,被略取者引渡し等の罪
③ 前号に掲げるもののほか,その犯罪行為にこれらの罪の犯罪行為を含む罪(1号に掲げる罪を除く)(同3号)
④ 前3号に掲げる罪の未遂罪(同4号)
例:殺人未遂罪,強姦未遂罪など