川崎パシフィック法律事務所

11 交通事故事件において最終的に認められる損害額

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11 交通事故事件において最終的に認められる損害額

11 交通事故事件において最終的に認められる損害額

(1) 自賠責保険金とそれ以外の賠償金

交通事故事件においては,一般的に,自賠責保険の被害者請求に基づく保険金と,その保険金受領後に交渉または訴訟により回収した賠償額とを入手することができます。

(2) 賠償額の算出方法

賠償額については,一般的に,以下のようにして算出されます。
賠償額
=全損害額×(1-過失割合*29)-既払金*30

ここで,とりわけ重篤な後遺症(後遺障害)が生じた事案について重要なことが,自賠責保険の被害者請求により受領した金員についても,交通事故発生日からその保険金を受領するまでの期間についての遅延損害金が発生するということです
なお,もちろん,その他の既払金についても遅延損害金が発生するのですが,その金額は少額であることが多く,あまり問題になりません。
たとえば,令和年4月1日より以前に発生した交通事故で,自賠法施行令別表第2第4級に該当する後遺障害等級が認定された場合,自賠責保険の被害者請求に基づく保険金を受領したのが事故からちょうど2年後だとすると,自賠責保険の被害者請求に基づく支払限度額1,889万円について,自賠責保険金についての確定遅延損害金額は,次の計算式により,188万9,000円が認められます。
1,889万円×0.05(改正前の民法所定の法定利率)×2(年)=188万9,000円

この費用を計上することで,既払金が存するときに賠償額の元金が不当に減少することを防止できますので,その分だけ賠償額が増えることになります。

(3) 損害額算出例

以上,検討したことを踏まえ,損害額を算出してみます。

ア  例1)

H30.4.1事故発生,基礎収入額(年収)500万円,治療関係費200万円(全額任意保険会社から病院へ支払済み),自賠法施行令別表第2第8級に該当する後遺障害等級認定あり(労働能力喪失率45%),休職期間3か月(その間,無給),症状固定時40歳(67歳までの期間は27年),過失割合2割,自賠責保険金は事故日から1年後に支払限度額(819万円)受給
(ア) 積極損害
200万円(治療関係費)

(イ) 休業損害
125万円(=500万(円)×1/4)

(ウ) 後遺症による逸失利益
3,034万9,350円(=500万(円)×0.45(労働能力喪失率)×13.4886(労働能力喪失期間67-40=27(年)に対応するライプニッツ係数))

(エ) 後遺症慰謝料
830万円

(オ) 自賠責保険金についての受領までの確定遅延損害金
40万9,500円(=819万(円)×0.05(民事法定利率)×1 (年))

(カ) (ア)~(オ)の小計
4,230万8,850円

(キ) 過失割合による減額後の金額
3,384万7,080円(=4,230万8,850(円)×(1-0.2))

(ク) 既払額控除後の金額
2,365万7,080(円)(=3,384万7,080(円)-200万(円)-819万(円))

(ケ) 弁護士費用
236万5,708円(=2,365万7,080(円)×0.1)

(コ) 合計額
2,602万2,788円

(サ) 合計額から自賠責保険金についての確定遅延損害金を控除した金額
2,561万3,288円

(シ) 賠償額
2,602万2,788円及び内2,561万3,288円に対する平成30年4月1日から支払済みまで年5%の金員

これが令和2年3月31日に支払われるとすると,2,858万4,116円ということになります。
また,現実には,この賠償額に加え,自賠責保険金も受領できることになります。

※ 仮に,自賠責保険金についての受領までの確定遅延損害金を請求していないとどうなるか試算してみます。
(ス) (ア)~(エ)の小計
4,189万9,350円

(セ) 過失割合による減額後
3,351万9,480円

(ソ) 既払額控除後

2,332万9,480円

(タ) 弁護士費用

233万2,948円

(チ) 合計額

2,566万2,428円

(ツ) 賠償額
2,566万2,428円及びこれに対する平成30年4月1日から支払済みまで年5%の金員

これが令和2年3月31日に支払われるとすると,2,822万8,670円ということになり,先の計算に比べて30万円以上少なくなってしまいます。

イ 例2)

H22.4.1事故発生により被害者即死,基礎収入額(年収)400万円,治療関係費300万円(全額任意保険会社から病院へ支払済み),死亡時50歳独身,過失割合1割,自賠責保険金は事故日から半年後に支払限度額(3,000万円)受給

(ア) 積極損害
300万円(治療関係費)

(イ) 死亡による逸失利益
3,156万7,480円(=400万(円)×(1-0.3(生活費控除率)×11.2741(労働能力喪失期間67-50=17(年)に対応するライプニッツ係数))

(ウ) 死亡慰謝料
2,200万円

(エ) 自賠責保険金についての受領までの確定遅延損害金
75万円(=3,000万(円)×0.05(民事法定利率)×0.5 (年))

(オ)(ア)~(エ)の小計
5,431万7,480円

(カ) 過失割合による減額後の金額
4,888万5,732円(=5,431万7,480(円)×(1-0.1))

(キ) 既払額控除後の金額
1,588万5,732円(=4,888万5,732(円)-300万(円)-3,000万(円))

(ク) 弁護士費用
158万8,573円(=1,588万5,732(円)×0.1)

(ケ) 合計額
1,747万4,305円

(コ) 合計額から自賠責保険金についての確定遅延損害金を控除した金額
1,672万4,305円

(サ) 賠償額
1,747万4,305円及び内1,672万4,305円に対する平成30年4月1日から支払済みまで年5%の金員

これが平成30年3月31日に支払われるとすると,1,914万6,735円ということになります。
また,現実には,この賠償額に加え,自賠責保険金も受領できることになります。

ウ 上記紹介した算出例についての注釈

上記紹介した算出例は,あくまで赤本基準を適用した場合のものです。
現実の交通事故事件訴訟においては,多種多様な論点をめぐって被害者側と加害者(任意保険会社)側との間で攻防が繰り広げられ,赤本基準どおりにいかないことも多くなっていますので,あくまで参考として捉えて下さい。


過失割合

ここでいう過失割合には,被害者自身の過失だけでなく,被害者側の過失として考慮される場合や,素因減額される場合を含みます。

既払金

既払金には,自賠責保険の被害者請求により入手した保険金や,労働災害補償保険法に基づく労災保険給付を受領している場合にはその金額,任意保険会社から治療費等を病院に支払ってもらっている場合にはその金額,任意保険会社から仮払い仮処分等を経て一時金を支払ってもらっている場合にはその金額,といったものを含みます。

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