16 遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)
(1) 遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)とは
ア 遺留分減殺請求
被相続人が自由分を超えて贈与や遺贈を行ったため遺留分が侵害されたときに,受遺者や受贈者*8などに対してその処分行為の効力を奪うことを遺留分の減殺といい,遺留分減殺を内容とする相続人の権利を遺留分減殺請求権といいます。
遺留分減殺請求権の行使は,令和元年(2019年)7月1日より以前に相続が開始した場合について可能です。
イ 遺留分侵害額請求
被相続人が自由分を超えて贈与や遺贈を行ったため遺留分が侵害されたときに,受遺者や受贈者などに対して,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することを遺留分侵害額請求といい,遺留分侵害額を内容とする相続人の権利を遺留分侵害額請求権といいます。
遺留分侵害額請求権の行使は,令和元年(2019年)7月1日以後に相続が開始した場合について可能です。
(2) 遺留分侵害額請求または遺留分減殺請求をできる者
遺留分侵害額請求または遺留分減殺請求をできる者は,遺留分権利者とその承継人です。
(3) 遺留分侵害額請求または遺留分減殺請求の相手方
ア 遺留分侵害額請求または遺留分減殺請求をできる者は,原則として,受遺者,受贈者及びその包括承継人です。
イ 包括遺贈が未履行の場合には,受遺者だけでなく,遺言執行者を相手方として遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)をすることもできます(大判昭13.2.26大審院民集17巻275頁参照)。
ウ また,令和元年(2019年)7月1日より以前に相続が開始した場合においては,受贈者から目的財産を譲り受けた者(特定承継人)が,譲受けの時において遺留分権利者に損害を与えることを知っていたときは,遺留分減殺請求の相手方となります(改正前の民法第1040条第1項ただし書)。
(4) 遺留分減殺請求の効果
ア 令和元年(2019年)7月1日より以前に相続が開始した場合において,遺留分減殺請求権が行使されると,遺留分を侵害する贈与や遺贈は,侵害の限度で失効し,贈与や遺贈が未履行の場合には履行義務を免れ,既に履行している場合には返還を請求することができます。
これにより,贈与や遺贈の目的物は受贈者・受遺者と減殺請求者との共有関係になります。
イ 減殺請求の相手方は,現物を返還することが原則ですが,価額で弁償することも許されます(改正前の民法第1041条)。
(5) 遺留分侵害額請求の効果
令和元年(2019年)7月1日以後に相続が開始した場合において,遺留分侵害額請求を行使すると,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます(民法第1046条第1項)。
(6) 遺留分侵害額の算定
遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)は,遺留分権利者が被相続人から得た財産等を考慮し,現実に遺留分額に満たないときに成立します。
この遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)の具体的な金額を遺留分侵害額といいます。
この遺留分侵害額は,次のようにして算定されます。
【遺留分侵害額】
=【遺留分額】-(【遺留分権利者が相続によって得た財産額】-【相続債務分担額】)-【特別受益額】
(7) 遺留分減殺請求における負担の順序
令和元年(2019年)7月1日より以前に相続が開始した場合において遺留分減殺請求が行使された場合における負担の順序(遺留分減殺の順序)は,以下のア~エのとおりです。
ア 第1順位
遺贈の受遺者と贈与(死因贈与を含む。)の受贈者が存在する場合には,受遺者が先に負担します(改正前の民法第1033条)。
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされている場合,遺贈と同視されるので,「相続させる」旨の遺言により財産を取得する者と受贈者が存在する場合には,「相続させる」旨の遺言により財産を取得する者が先に負担します。
イ 第2順位
受遺者が複数ある場合,「相続させる」旨の遺言により財産を取得する者が複数ある場合または受遺者と「相続させる」旨の遺言により財産を取得する者がある場合で,遺言者の別段の意思が表明されていないときは,その目的の価額の割合に応じて負担します(改正前の民法第1034条)。
ウ 第3順位
受遺者及び「相続させる」旨の遺言により財産を取得する者が負担し,それでも遺留分が保全されない場合,死因贈与による受贈者が負担します。
死因贈与による受贈者が負担してもなお遺留分が保全されない場合,死因贈与でない贈与による受贈者が負担します(東京高判平12.3.8判タ1039号294頁参照)。
エ 第4順位
死因贈与でない贈与による受贈者が複数ある場合は,後の贈与にかかる受贈者から順次前の贈与にかかる受贈者が負担します(改正前の民法第1035条)。
(8) 遺留分侵害額請求における負担の順序
令和元年(2019年)7月1日以後に相続が開始した場合において遺留分侵害額請求が行使された場合における負担の順序は,以下のア~エのとおりです。
ア 第1順位
遺贈の受遺者と贈与の受贈者が存在する場合には,受遺者が先に負担します(民法第1047条第1項第1号)。
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言がなされている場合,遺贈と同視されるので,「相続させる」旨の遺言により財産を取得する者と受贈者が存在する場合には,「相続させる」旨の遺言により財産を取得する者が先に負担します。
イ 第2順位
受遺者が複数ある場合,「相続させる」旨の遺言により財産を取得する者が複数ある場合または受遺者と「相続させる」旨の遺言により財産を取得する者がある場合で,遺言者の別段の意思が表明されていないときは,その目的の価額の割合に応じて負担します(民法第1047条第1項第2号)。
ウ 第3順位
受遺者及び「相続させる」旨の遺言により財産を取得する者が負担し,それでも遺留分が保全されない場合で,遺言者の別段の意思が表明されていないときは,死因贈与による受贈者が負担します。
死因贈与による受贈者が負担してもなお遺留分が保全されない場合で,遺言者の別段の意思が表明されていないときは,死因贈与でない贈与による受贈者が負担します(東京高判平12.3.8判タ1039号294頁参照)。
エ 第4順位
死因贈与でない贈与による受贈者が複数ある場合で,遺言者の別段の意思が表明されていないときは,後の贈与にかかる受贈者から順次前の贈与にかかる受贈者が負担します(民法第1047条第1項第3号)。
(9) 遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)行使の制限
ア 短期消滅時効
遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)は,遺留分権利者が,相続の開始及び遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知った時から1年で時効により消滅します(民法第1048条前段,改正前の民法第1042条前段)。
この1年の期間制限内には,遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)を行使するという意思表示をすれば足り,その行使により生じた目的物の返還請求権等が独自に時効により消滅することはありません。
イ 除斥期間
遺留分侵害額請求権(遺留分減殺請求権)は,相続開始から10年経過した場合にも消滅します(民法第1048条後段,改正前の民法第1042条後段)。
受贈者
「受贈者」とは,贈与を受けた者をいいます。
包括承継人
「包括承継人」とは,相続人など,他人の権利義務を一括して継承する者をいいます。