ウ 自己破産手続の概要
(ア) 自己破産手続が利用できる方
債務者が負担している債務について支払不能の状態にあれば,自己破産手続を利用することができます(破産法15条1項)。
そして,債務者が支払を停止すれば支払不能の状態にあると推定されます(同条2項)。
弁護士が依頼を受け,受任通知を発送した段階で支払を停止することになりますので,弁護士に破産を依頼した時点でまず支払不能であると評価されることになります。
(イ) 同時廃止事件と管財事件
a. 破産手続は,以下の(a)と(b)に分かれます。
(a)同時廃止事件
(破産手続開始決定と同時に破産手続が終了し(破産手続廃止*18),すぐに免責手続に移る場合)
(b)管財事件
(裁判所から破産管財人という弁護士が選任され,債権者集会が開催される場合)
b. 管財事件には,後記(オ)記載のとおり,(a)清算型のものと,(b)調査型のものがあります。
(ウ) 同時廃止事件
同時廃止事件では,免責審尋(審問)期日に出頭する必要がある以外には,依頼者の方に特段の負担はありません。
なお,破産手続においては管財事件となるのが原則で,同時廃止事件となるのが例外ということになっていますが,依頼者の方の個々の財産が20万円(ただし現金の場合は33万円)以上でない場合で,かつ,20万円未満(現金の場合は33万円未満)の個々の資産が積み重なって多額になるということもないという場合で,免責に特段の問題のない方については幅広く同時廃止事件となっています。
(エ) 管財事件
裁判所から選任される破産管財人は,破産者が破産手続開始決定時点で有する財産についての管理処分権を取得しますので(破産法78条1項),破産者の手元に残すことが許された財産以外は破産管財人に引き継ぐ必要があります(実際には,申立前の段階で依頼者の方から申立人代理人弁護士が預かり,申立人代理人弁護士から破産管財人に引き継ぐことが多くなっています。)。
また,依頼者の方が破産者(申立人)代理人とともに,破産管財人の事務所に赴き,破産管財人と打合せをする必要もあります。
さらに,依頼者の方(破産者)宛ての郵便物は破産管財人にすべて転送され,開封して財産隠し等していないかどうかチェックを受けた上でしか依頼者の方(破産者)に対して返還されません(その期間は一般に第1回債権者集会のときまでとなります。)。
加えて,破産手続中に転居したり長期の旅行に出かけたりするような場合には破産管財人の許可が必要になります。
そして,なにより重要なのが,最低20万円を,破産管財人に引き継ぐために用意しなければならないという点です(もっとも,解約返戻金の見込まれる保険証券等を有している場合にはそれを引き継ぐことで足ります。)。
管財事件となった場合,異時廃止事件として終了する場合と配当手続を経て終了する場合(これを破産手続の「終結」といいます。)とがあります。
(オ) 同時廃止事件と管財事件の振り分け基準
a. 清算型の管財手続
(a)債務者が保有している個々の財産が20万円(ただし現金の場合のみ33万円)以上である場合には,原則として管財事件となります。
例えば,以下のとおりです。
① 33万円以上の現金・預貯金を有している場合
② 20万円以上の預貯金を有している場合
③ 解約返戻金額が20万円以上となるような保険を有している場合*20
④ 自己都合での退職金見込額の8分の1*21が20万円以上となる場合
⑤ 財形貯蓄等の積立金が20万円以上となる場合
⑥ 自動車の時価が20万円以上となる場合
⑦ 不動産の時価が1.2倍未満のオーバーローンとなっている場合*22
⑧ 貸金業者に対する過払金請求権が20万円以上となる場合
⑨ 破産管財人による否認権*23行使が可能な場合
(b)個々の財産が20万円(ただし現金の場合のみ33万円)以上とはならない場合であっても,20万円未満(現金の場合は33万円未満)の個々の資産が積み重なって多額になる場合には,管財事件となることもあります。
b. 調査型の管財手続
33万円以上の財産を持っていない場合でも,申立人に免責不許可事由が認められ,裁量免責をしてよいかどうか破産管財人が調査する必要があると裁判所が考える場合にも,管財事件となります。
同時廃止事件
破産手続開始と同時に破産手続を廃止する(債権者に対する配当手続を行わないことが決まる/破産法216条1項)ことから,「同時廃止」と呼ばれています。
破産手続廃止
破産手続廃止とは,破産手続による破産者の債権債務関係の清算が終了する前に破産手続を終了させることをいいます。
一般債権者に配当できるだけの財産が集まらないため,債権者に対する配当手続を行わずに破産手続を終了させるものです。
異時廃止事件
破産手続開始決定後,破産管財人による調査を経てもなお,一般債権者に対して配当できるだけの財産が集まらないため,破産手続を廃止するものです。
破産手続開始と同時に破産手続を廃止する同時廃止事件と異なり,破産手続を開始した後に破産手続を廃止することから,「異時廃止」と呼ばれています。
解約返戻金額が33万円以上となるような保険を有している場合
保険が財産価値を有するかどうかの判断については,その保険の「契約者」が破産者のものかどうかで判断されます。
そのため,医療保険等で被保険者が破産者であっても,契約者が破産者のご主人であるような場合は破産者の財産ではない扱いとなりますが,他方,学資保険のようにお子様のための保険であっても,契約者が破産者であれば破産者の財産として扱われます。
自己都合での退職金見込額の8分の1
破産手続においては,①原則として,自己都合での退職金見込額の8分の1のみが財産として扱われます。
しかし,②申立て段階で既に退職していたり近々退職することが予定されている場合で退職金をまだ受領していない場合には退職金見込額の4分の1が財産として扱われます。
また,③既に退職して退職金を受領した場合には,受領した退職金全額について財産として扱われます。
不動産の時価が1.2倍未満のオーバーローンとなっている場合
たとえば,不動産の時価が3,000万円,その不動産に設定されている抵当権についての残債権額が3,300万円となっている場合についてみると,残債権額が不動産の時価を上回っているためオーバーローンと評価されますが,3,000万円÷3,300万円で1.1倍のオーバーローンと評価されることになります。
破産管財人はその不動産を任意売却すると,競売手続になるよりも高額で売却できることが多く抵当権者にも利益となるため,おおむね不動産の売却価格の3%(この場合,90万円程度)を,抵当権者以外の一般債権者に配当するための財産(破産財団)に組み入れることができます。
そのため,「不動産の時価が1.2倍未満のオーバーローンとなっている場合」には,20万円以上の財産を持っているものと扱われてしまうのです。
否認権
破産手続開始決定前に,破産者がなした行為や破産者に対してなされた行為が,他の債権者を害する場合に,その行為の効力を失わせて,その行為によって破産者のもとから失われた財産を破産財団に回復させることです。
経済状態の悪化した債務者が,その財産を無償で譲渡したり,安く売却したり,隠したり,または一部の債権者にのみ債務を弁済するなどして,債権者全体の利益を害するときに否認権が行使されるときがあります。