エ 住宅資金特別条項
(ア) 住宅資金特別条項の意義
個人再生手続において住宅資金特別条項を定めれば,個人債務者は,生活の基盤である住宅を手放さずに経済的再生を果たすことができます。
(イ) 住宅資金特別条項を定めることのできる「住宅」
住宅資金特別条項を定めることのできる「住宅」とは,「個人である再生債務者が所有し,自己の居住用に供する建物であって,その床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居宅の用に供されるもの」をいいます(民事再生法196条1号本文)。
「自己の居住用に供する」といえるためには,原則として債務者自身が現に居住していることを要しますが,債務者が単身赴任で家族は居住しているような場合でも適用されます。
また,住宅が二世帯住宅や店舗兼居宅となっている場合でも,債務者の居住部分が床面積の2分の1以上であれば,「その床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら自己の居宅の用に供されるもの」に該当します。
(ウ) 住宅資金特別条項を定めることができない場合
以下の場合には,住宅資金特別条項を定めることができません。
a. 抵当権者の有する債権が住宅資金貸付債権ではない場合
住宅資金特別条項を定めることができるのは,住宅資金貸付債権についてだけです(民事再生法198条1項)。
住宅資金貸付債権とは,住宅の建設または購入,住宅の用に供する土地または借地権(地上権,賃借権)の取得,住宅の改良(リフォーム等)に必要な資金の貸付債権をいいます。
そのため,住宅の抵当権者の有する債権が事業資金についての不動産担保であるような場合には,住宅資金特別条項を定めることができません。
もっとも,住宅資金貸付債権が複数ある場合(たとえば,独立行政法人住宅金融支援機構(旧:住宅金融公庫)と銀行の2つから住宅ローンを組んだ場合)でも,住宅資金特別条項を定めることが可能です。
b. 住宅資金貸付債権が法定代位により取得された場合
保証人等が保証債務を履行することなどにより取得した住宅資金貸付債権については,住宅資金特別条項を定めることができません(同法198条1項本文)。
もっとも,住宅ローンについては,保証会社による保証を受けることが融資条件となっているのが一般的で,保証会社が保証債務の履行をしたことにより住宅資金貸付債権を代位取得した場合には,保証債務の全部を履行した日から6か月を経過する日までの間に再生手続の申立てがなされれば,住宅資金特別条項を定めることが可能です(同条2項)。
c. 住宅の上に住宅ローン関係の抵当権以外の担保権が設定されている場合
住宅の上に住宅ローン関係の抵当権以外の抵当権が設定されている場合(たとえば,住宅に貸金業者による不動産担保ローンが設定されているような場合)には,住宅資金特別条項を定めることができません(同条1項但書)。
d. 住宅以外の不動産にも住宅ローン関係の抵当権が設定されている場合においてその不動産にその抵当権よりも高順位の担保権が設定されている場合
住宅以外の不動産が共同抵当物件となっている場合において,その不動産に高順位の担保権が設定されている場合には,住宅資金特別条項を定めることができません(同条1項但書)。
法定代位
保証人等が主債務者に代わって債権者に債務を弁済すると,その保証人等はその債権者に代わって,その債権者が有していた権利を当然に取得します(民法500条)。
これにより,保証人等はその債権者の有していた抵当権等を取得するわけですが,法律上当然に取得することになるので,「法定代位」といいます。
住宅資金貸付債権に関する弁済許可
再生計画に住宅資金特別条項を定める旨の申し出をした場合でも,裁判所の許可がないかぎり,再生手続開始後に住宅ローンの支払をすることはできません。
住宅資金貸付債権に関する弁済許可の制度は,再生債務者が,再生計画に住宅資金特別条項を定める旨の申し出をしたときに,再生手続開始後に住宅資金貸付債権の一部を弁済しないと住宅資金貸付債権の全部または一部について期限の利益を喪失する(分割弁済する利益を失う)場合は,裁判所の許可により弁済をすることができるというものです