【法人の債務整理】(5)手続選択の基準
ア 手続選択の基準一般論
民事再生手続,会社更生手続,破産手続,特別清算手続または私的整理(任意整理)のいずれの方法を選択するかについては,弁護士と依頼者の方との間で協議した上で決める事項のため一義的に決まるものではありません。
また,法人の状況がどのように変化するかに応じて対応を臨機応変に決めなければならない事項のため一概には決められません。
とはいえ,一般論としては以下のとおりです。
イ 再建型と清算型の選択基準
再建型(民事再生手続,会社更生手続)と清算型(破産手続,特別清算手続)のいずれを選択するかについては,まず法人の事業に収益力があるか,現在収益力がないとしても収益力を速やかに回復させる見込みがあるかどうかです。
収益力がない場合には,清算型を選択せざるを得ません。
また,再建型においては多大な費用を要するので,法人に相応の財産があることも求められますし,再建に協力的なスポンサーの存在もほぼ欠かせない面があります。
収益力がない場合等には,清算型を選択することになります。
ウ 再建型を選択した場合における会社更生手続と民事再生手続の選択の基準
再建型を選択した場合,会社更生手続は大規模な株式会社を想定されたもので厳格な手続が要求され,担保権の行使が制限されるというメリットがありますが,従来の経営者は原則として退任を余儀なくされ,費用も莫大なため,中小企業や経営を手放したくない経営者にとっては利用できないというデメリットがあります。
他方,民事再生手続の場合は,従来の経営者は原則として経営を継続でき,会社更生手続ほどは費用がかかりませんが,担保権の行使が制限されず,債務免除により発生した利益にかけられる課税に苦しむなどのデメリットがあります。
エ 清算型を選択した場合の特別清算手続と破産手続の選択の基準
清算型を選択した場合,債権者数が少なく,清算に同意する債権者が多く,再建の存否について争いがなく,法律関係も複雑ではないといった特殊な事情がある場合には特別清算手続が利用できます。
しかし,それ以外には破産手続によらざるを得ません。
オ 私的整理(任意整理)手続選択の基準
私的整理(任意整理)手続を選択した場合,再建型・清算型のいずれも利用でき,弾力的に,迅速な処理が可能であるというメリットがありますが,債権者との調整がうまくいくような場合にしか利用できないというデメリットがあります。
カ 破産手続選択が多くなる理由
このように,破産手続以外の手続には利用を難しくする面があり,特定の債権者との交渉(とりわけ,リスケジュール)がまとまるだけで債務整理可能な場合を除き,破産手続を利用せざるを得ないことが多くなっています。
そこで,以下では,破産手続に絞って説明します。