6 離婚請求が認められるかどうかという問題
(1) 「離婚原因」などの意味合い
離婚について協議でまとまらず,調停でもまとまらず,離婚訴訟において和解が成立しない場合には,最後は判決で白黒をつけることとなります。
判決となった場合,離婚が認められるためには,離婚原因(民法第770条第1項各号)があることに加え,離婚請求が信義則に反し許されないものではないことが必要となります。
もっとも,大半の事件においては,協議,調停または裁判上の和解のいずれかで離婚が成立しているため,強固な離婚原因がないケースであったり第三者と不貞関係にあって有責配偶者に該当しているケースであっても,離婚を求めて協議,調停または訴訟に踏み切るべき場合もあります。
とはいえ,協議であっても調停であっても,もし訴訟になって判決になった場合に離婚請求が認められそうかどうかというのは,離婚条件交渉において重要な要素となります。
そのため,協議や調停の場面においても,強固な離婚原因があるかどうか,有責配偶者であるとされるかどうか,有責配偶者であるとされても別居期間が長期間に及んでいるなどの事情があって離婚請求が信義則に反し許されないとされるものであるかどうか,という点を念頭に置いておく必要があります。
(2) 離婚原因
ア 離婚原因は以下の5つが定められています(民法第770条第1項各号)。
① 配偶者に不貞な行為があったとき。(第1号)
② 配偶者から悪意で遺棄されたとき。(第2号)
③ 配偶者の生死が3年以上明らかでないとき。(第3号)
④ 配偶者が強度の精神病にかかり,回復の見込みがないとき。(第4号)
⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。(第5号)
イ 上記のうち,「① 配偶者に不貞な行為があったとき。」(民法第770条第1項第1号)に該当する場合は一定数ありますが,②~④(民法第770条第1項第2~4号)に該当する場合はほとんどありません。
大半のケースでは,「⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」(民法第770条第1項第5号)に該当するかどうかが問題となるものです。
ウ 「⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」(民法第770条第1項第5号)に該当するかどうかが問題となる場合,配偶者が暴力を振るう,暴言を吐くといった事情が証拠により証明できるケースであれば,強固な離婚原因があるといえ,「⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」と認められやすいところです。
もっとも,離婚訴訟で当事者間で対立する場合に,相手方当事者が素直に暴力を振るったとか暴言を吐いた等を認めることは考えがたく,医師の診断書,写真,録音データ等の証拠の有無が重要になります。
配偶者が暴力を振るう,暴言を吐くといった事情がないケースでも,配偶者が自ら別居を選択したとか相手方配偶者に対して別居を求めていたといった事情が認められるケースにおいては,「⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」と認められやすいといえます。
配偶者が暴力を振るう,暴言を吐くといった事情がなく,配偶者が自ら別居を選択したとか相手方配偶者に対して別居を求めていたといった事情もないケースにおいては,「⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」と認められるかどうかは,別居期間が鍵となっています。
近時の実務上の傾向としては,夫婦の別居期間が3年経過しているかどうかというのが大きなメルクマールとなっています。
エ 配偶者が暴力を振るう,暴言を吐くといった事情がなく,配偶者が自ら別居を選択したとか相手方配偶者に対して別居を求めていたといった事情もないケースにおいては,別居期間が「⑤ その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。」と認められるかどうかが鍵となっているため,当事者間で別居がいつの時点で開始したのかというのが大きな争いになることも多くなっています(なお,清算的財産分与の対象財産の確定についての基準時も別居時点とされることがほとんどなので,その点でも別居開始日がいつであるかというのが争いになります。)。
(3) 離婚請求が信義則に反し許されないものではないかどうか
ア 配偶者の一方が不貞行為をしたり,他方配偶者に対して虐待や重大な侮辱をしたりするなど,夫婦間の婚姻共同生活を破綻させるような行為を行ったと認められる場合,その配偶者は有責配偶者とされます。
イ 離婚請求を求める側が有責配偶者と認められる場合は,不貞行為に及んでいるか他方配偶者に対して暴力を振るっているかのいずれかのケースにほぼ限られますが,ごくまれにこれら以外の事項により有責配偶者と認定されることもあります(なお,離婚請求訴訟で「有責配偶者」であるという主張がなされること自体はしばしばあります。)。
ウ 離婚請求を求める側が有責配偶者とされた場合,有責配偶者からの離婚請求が信義則に反し許されないとされるかどうかについては,以下の①~③の3点から判断されることとなります(最大判昭62.9.2民集41巻6号1423頁)。
① 夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいること
② 夫婦の間に未成熟の子が存在しないこと
③ 相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的にきわめて苛烈な状態に置かれるなど離婚請求を認容することが著しく社会正義に反すると言えるような特段の事情が認められないこと
エ このうち,①の要件(夫婦の別居が両当事者の年齢及び同居期間との対比において相当の長期間に及んでいること)については,5~10年別居が続いた場合には別居期間が相当の長期間に及んでいるとされています(もっとも,5年で足りるのか10年別居が必要なのかといったところは,裁判官によって判断がばらばらすぎて,訴訟提起してみないとなんともいえないところです。)。
②の要件(夫婦の間に未成熟の子が存在しないこと)については,子どもが概ね高校生以上になれば未成熟の子が存在しないと考えられています。
③の要件(相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的にきわめて苛烈な状態に置かれるなど離婚請求を認容することが著しく社会正義に反すると 言えるような特段の事情が認められないこと)については,離婚に伴う経済的給付額そのものが不十分だったり,その給付が確実になされるか不安が残ったりする場合に,特段の事情があるとされることがあります。
オ 有責配偶者と認められるかどうか,有責配偶者に該当するとしても前記ウ①~③の要件を充たすとして離婚請求が信義則に反し許されないといえるかどうかという点の主張立証が,離婚請求が認められるかどうかの重要な鍵となることも数多くあります。