6 配転命令無効確認請求
(1) 配転命令無効確認請求とは
ア 従業員の配置の変更のうち,職務内容または職務場所が相当の長期間にわたり変更するものを,配転といいます。
この配転の効力を争うものを,配転命令無効確認請求といいます。
イ 訴訟により配転命令無効確認を請求する場合には,「請求の趣旨」欄に「原告が,被告●●支店に勤務する雇用契約上の義務のないことを確認する。」旨記載することになります。
(2) 配転命令の無効原因
配転命令の無効原因には,以下のア~ウがあります。
ア 強行法規規定違反
イ 雇用契約による配転命令権の制限違反
ウ 配転命令権の濫用
(3) 前記(2)アの「強行法規規定違反」
以下のア~キの強行法規規定に違反してなされた配転命令は無効です。
ア 国籍,信条又は社会的身分による差別的取扱いの禁止(労働基準法第3条)
イ 性別を理由とする差別的取扱いの禁止(雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)第6条第4号)
ウ 婚姻,妊娠,出産,産前産後休業を理由する不利益取扱いの禁止((雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(男女雇用機会均等法)第9条)
エ 育児休業,介護休業,子の看護休暇,所定外労働の制限,時間外労働の制限,深夜業の制限,所定労働時間の短縮措置の申出等を理由とする不利益取扱いの禁止(育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(育児介護休業法)第10条,第16条,第16条の4,第16条の9,第18条の2,第20条の2,第23条の2)
オ 通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止(短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法)第8条)
カ 都道府県労働局長に対し個別労働関係紛争解決の援助を求めたこと,あっせんを申請したことを理由とする不利益取扱いの禁止(個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(個別 労働関係紛争解決促進法)第4条,第5条)
キ 不当労働行為の禁止(労働組合法第7条)
(4) 前記(2)イの「雇用契約による配転命令権の制限違反」
ア 職種の制限に違反した配転命令
雇用契約上,労働者の職種が限定されている場合には,使用者が一方的に職種を変更することはできず,その限定された職種に違反する配転命令は無効となります。
イ 勤務地の制限に違反した配転命令
使用者と労働者との間で勤務地を限定する合意がなされている場合,使用者は労働者に対し,合意の範囲を超えた配転命令をすることはできず,その合意に反する配転命令は無効となります。
(5) 前記(2)ウの「配転命令権の濫用」
ア 配転命令権の行使が濫用とされ配転命令が無効となる場合
配転命令が以下の(ア)~(ウ)に該当する場合,その配転命令権の行使は権利の濫用であって配転命令が無効となります。
(ア) 業務上の必要性がない場合
(イ) 著しい職業上または生活上の不利益を負わせるものである場合
(ウ) 不当な動機・目的でなされた場合
イ 前記ア(ア)の「業務上の必要性がない場合」
(ア) 業務上の必要性がないにもかかわらずなされた配転命令は権利の濫用にあたります。
(イ) 業務上の必要性については,当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替えがたいという高度の必要性がある場合にまでは限定されません。
労働者の適正配置,業務の能率増進,労働者の能力開発,勤労意欲の高揚,業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められれば,業務上の必要性があるものとされます(東亜ペイント事件・最二小判昭61.7.14裁判集民148号281頁)。
(ウ) 使用者側では,業務上の必要性という評価を基礎づける具体的な事実(労働者の適正配置など)を主張立証することとなります。
ウ 前記ア(イ)の「著しい職業上または生活上の不利益を負わせるものである場合」
(ア) 配転命令に業務上の必要性がある場合であっても,その配転命令が,労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を負わせるものであるときには,権利の濫用にあたります。
(イ) 労働者側では,不利益という評価を基礎づける具体的な事実を主張立証することとなります。
エ 前記ア(ウ)の「不当な動機・目的でなされた場合」
(ア) 配転命令に業務上の必要性がある場合であっても,その配転命令が,不当な動機・目的でなされたものであるときには,権利の濫用にあたります。
(イ) 労働者側では,どのような不当な動機・目的があったのかという評価を基礎づける具体的な事実を主張立証することとなります。