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6 土地明渡請求,建物収去土地明渡請求,建物退去土地明渡請求

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6 土地明渡請求,建物収去土地明渡請求,建物退去土地明渡請求

6 土地明渡請求,建物収去土地明渡請求,建物退去土地明渡請求

(1) 土地明渡請求,建物収去土地明渡請求,建物退去土地明渡請求とは

ア 土地明渡請求

土地明渡請求とは,賃料(地代)が滞納されたことなどを理由として賃貸借契約を解除する場合のように,賃貸借契約や使用貸借契約の終了原因があることなどに基づいて,土地所有者や土地の賃貸人(貸主)が土地を占有する者に対し,土地を明け渡すことを求めるものです(なお,土地所有者と土地の賃貸人(貸主)が一致することが一般的ですが,一致しない場合もあります。)。
土地の明渡しを求める際には,その明渡しとともに,土地明渡完了までの賃料(地代)や賃料相当損害金の支払を求めるのが一般的です。

イ 建物収去土地明渡請求

建物収去土地明渡請求とは,賃料(地代)が滞納されたことなどを理由として賃貸借契約を解除する場合のように,賃貸借契約や使用貸借契約の終了原因があることなどに基づいて,土地所有者や土地の賃貸人(貸主)が建物を所有して土地を占有する者に対し,建物を収去して土地を明け渡すことを求めるものです。  

なお,土地所有者と土地の賃貸人(貸主)が一致することが一般的ですが,一致しない場合もあります。
建物を収去して土地の明渡しを求める際には,その明渡しとともに,建物収去土地明渡完了までの賃料(地代)や賃料相当損害金の支払を求めるのが一般的です。

なお,建物をどのように処分するかは建物所有者の自由であるため,土地所有者や土地の賃貸人(貸主,地主)がその土地上の建物の所有者に対し建物を自分に売り渡すように求めることはできませんが,建物収去土地明渡しを求めるなかで,土地所有者と建物所有者との間で,建物所有者が土地所有者に対し建物を譲り渡すことで合意することはしばしばあります。

ウ 建物退去土地明渡請求

建物退去土地明渡請求とは,賃料が滞納されたことなどを理由として賃貸借契約を解除する場合のように,賃貸借契約や使用貸借契約の終了原因があることなどに基づいて,土地所有者や土地の賃貸人(貸主)が建物の占有者に対し,建物を退去して土地を明け渡すことを求めるものです。

なお,土地所有者と土地の賃貸人(貸主)が一致することが一般的ですが,一致しない場合もあります。
建物収去土地明渡しを求める際に,建物所有者以外に建物の占有者が存在する場合に,この建物退去土地明渡しを求める必要があります。

なお,建物の占有者は土地の賃料(地代)の支払義務を負うものではないため,建物の占有者に対して建物退去土地明渡しまでの賃料(地代)や賃料相当損害金の支払を求めることはできません(最三小判紹31.10.23民集10巻10号1275頁参照)。

(2) 土地明渡しなどの請求の類型

ア 土地明渡し,建物収去土地明渡し及び建物退去土地明渡しの請求の類型としては,以下の(ア)及び(イ)の場合があります。
(ア) 賃貸借契約終了に基づく場合
(土地所有権に基づいて土地明渡し,建物収去土地明渡しまたは建物退去土地明渡しを求めたのに対し,抗弁として賃貸借契約の存在を主張され,再抗弁として賃貸借契約終了を主張する場合を含む。)

(イ) 使用貸借契約終了に基づく場合
(土地所有権に基づいて土地明渡し,建物収去土地明渡しまたは建物退去土地明渡しを求めたのに対し,抗弁として使用貸借契約の存在を主張され,再抗弁として使用貸借契約終了を主張する場合を含む。)

イ 前記ア(ア)の賃貸借契約終了に基づき土地明渡しなどを求める場合(土地所有権に基づいて土地明渡し,建物収去土地明渡しまたは建物退去土地明渡しを求めたのに対し,抗弁として賃貸借契約の存在を主張され,再抗弁として賃貸借契約終了を主張する場合を含む。)における賃貸借契約終了の理由には,以下の(ア)~(ウ)があります。
(ア) 賃貸借契約解除を理由とする場合
(イ) 賃貸借契約の期間満了を理由とする場合
(ウ) 賃貸借契約を合意解約する場合

(3) 賃貸借契約解除を理由とする賃貸借契約終了に基づく土地明渡しなどの請求

ア 解除権の発生原因事実(解除原因)

(ア) 契約解除を理由として賃貸借契約終了に基づき土地明渡しなどを求めるには,解除権の発生原因事実(解除原因)が必要となります。
土地所有権に基づいて建物収去土地明渡しを求める場合においても,抗弁として賃貸借契約の締結などを主張されたときには,再抗弁として,解除権の発生原因事実(解除原因)が必要となります。

(イ) 解除権の発生原因事実(解除原因)としては,以下のa.~f.が挙げられます。
a. 賃料不払い
b. 用法違反
c. 無断増改築
d. 無断転貸・賃借権の無断譲渡
e. 暴力団排除条項(暴排条項)違反
f. 禁止条項違反

イ 信頼関係破壊の法理

建物の所有を目的としない地上権もしくは土地の賃借権が設定された場合または建物の所有を目的としない地上権もしくは土地の賃借権が設定された場合であっても一時使用目的の土地賃貸借契約を締結したときには借地借家法が適用されませんが(同法第1条,25条),それ以外の土地賃貸借契約については借地借家法が適用されます。

借地借家法の適用がある土地賃貸借契約においては,解除権の発生原因事実(解除原因)が存在するとしても,賃貸借契約解除の場面においては,賃貸人(貸主,地主)に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情が存するときには,賃貸借契約の解除が認められません(信頼関係破壊の法理/最三小判昭39.7.28民集18巻6号1220頁参照)。

ウ 前記ア(イ)a.の「賃料不払い」の場合

(ア) 賃料(地代)の支払は半年払いとか年払いなどとなっている場合も多く,建物収去土地明渡しが認められてしまうと賃借人(借主,借地人)の不利益も大きいため,借地借家法の適用がある土地賃貸借契約においては,賃料不払いが長期間に及んだときにはじめて,賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情が存するとはいえない(解除が認められる)と考えられています。

(イ) なお,賃料不払いが短期間にとどまる場合,それだけではただちに解除が認められなくとも,信頼関係維持困難の一事情にはなると思われるので(東京地判平7.10.11判タ915号158頁参照),賃料不払以外の解除原因と相まって,解除が認められることがありえます。

(ウ) 他方,借地借家法の適用のない土地賃貸借契約においては,信頼関係破壊の法理の適用がないことから,賃料不払いが短期間にとどまる場合でも賃貸借契約の解除が認められます。

エ 前記ア(イ)b.の「用法違反」の場合

(ア) 用法違反とは,賃貸借契約において用法が定められているのに,それに違反する場合をいいます。

(イ) 借地借家法の適用のない土地賃貸借の場合で,駐車場として使用すると定めて賃借したにもかかわらず,採石場として使用したような場合には,用法違反として高い確率で解除が認められます。

(ウ) 他方で,借地借家法の適用のある土地賃貸借の場合,土地賃貸借契約において,例えば,土地上の建物を住居として使用すると定められて賃借したにもかかわらず土地上の建物を事務所や店舗として使用した場合であっても,そもそも用法違反とは認められないか,用法違反とされるとしても,賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情が存するとされる(解除が認められない)ことがほとんどです。
もっとも,土地上の建物が暴力団事務所として使用された場合などには,建物の利用方法が用法違反に該当することを理由として,土地賃貸借の解除が認められることがあります。

オ 前記ア(イ)c.の「無断増改築」の場合

(ア) 土地賃借権において建物の増改築についてなんらの特約も設定されていない場合には,土地の賃借人(借主,借地人)がその土地上の自己所有の建物を増改築するのは自由です。

(イ) 当事者間で増改築禁止特約が設定されていた場合,当事者間の土地賃貸借が一時使用目的のものであれば借地借家法の適用がないので(同法第25条),その特約に違反した場合には,高い確率で無断増改築を理由とした契約解除が認められます。

(ウ) 当事者間で増改築禁止特約が設定されていた場合,当事者間の土地賃貸借が一時使用目的以外のもので借地借家法の適用がある場合,その無断増改築が借地権者(賃借人,借主,借地人)の土地の通常の利用上相当であり,借地権設定者(賃貸人,貸主,地主)に著しい影響を及ばさないときは,借地権設定者(賃貸人,貸主,地主)に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情が存するとされます(最一小判紹41.4.21民集20巻4号720頁)。

もっとも,最一小判紹41.4.21民集20巻4号720頁の判断は,増改築許可の裁判制度が創設される前の事案についてのものですので,この制度が創設されている現在,増改築許可の裁判を経ることなく無断増改築をした場合には,借地権設定者(賃貸人,貸主,地主)に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情が存すると判断される可能性は低いものと思われます。

カ 前記ア(イ)d.の「無断転貸・賃借権の無断譲渡」の場合

(ア) 土地の利用契約が地上権である場合には,地上権者による地上権の譲渡や土地の転貸は自由です(地上権が物権である以上,物権の効力として当然のこととされています。)。

(イ) 他方,土地の利用契約が賃借権の場合,賃貸借契約に無断転貸や賃借権の無断譲渡を禁じる特約が定めている場合はもちろん,定めていない場合であっても,土地の無断転貸や賃借権の無断譲渡は許されず(民法第612条第1項),建物の無断転貸や賃借権の無断譲渡の解除が認められることが原則です(同条第2項参照)。
もっとも,借地借家法の適用のある土地賃貸借の場合,賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情が存するときには,解除が認められません(ただし,現実には,無断転貸や賃借権の無断譲渡にはあたらないと判断されることはあっても,無断転貸や賃借権の無断譲渡にあたるとされながら,それが賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情が存するといえる場合は生じそうにありません。)。

キ 前記ア(イ)e.の「暴力団排除条項(暴排条項)違反」の場合

土地賃貸借契約において,「賃借人が暴力団またはその関係者であることが判明したこと」などを解除理由とするなどの特約(暴力団排除条項(暴排条項))を設けた場合に,賃借人が暴力団員であることが判明したときには,賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りない特段の事情が存するとはいえない(解除が認められる)と考えられています。

ク 前記ア(イ)f.の「禁止条項違反」の場合

土地賃貸借契約における一般的な契約書には,共同生活の秩序を守り,他人の迷惑になることを禁止するといった条項が設けられています。
土地上の建物が暴力団事務所として使用されている場合などには,このような一般的な条項も解除権の発生原因事実(解除原因)となります。

(4) 賃貸借契約の期間満了を理由とする土地明渡しなどの請求

ア 借地借家法の適用の有無

賃貸借契約の期間満了を理由とする土地明渡しなどの請求については,以下の(ア)のときと(イ)のときとで取扱いが異なります。
(ア) 借地借家法の適用のない土地賃貸借の場合
(イ) 借地借家法の適用のある土地賃貸借の場合

イ 前記ア(ア)の「借地借家法の適用のない土地賃貸借」の場合

(ア) 駐車場として利用する目的など,建物を所有する目的ではなく,土地賃貸借契約が締結される場合があります。

(イ) サーカスの興行のために賃貸借契約を締結する場合などのように,一時使用目的で土地賃貸借契約が締結される場合もあります。
一時使用目的の建物賃貸借に該当するかどうかは,賃貸借の目的,動機,その他諸般の事情から,当該賃貸借を短期間に限って存続させる趣旨のものであることが客観的に判断されることが必要です。

(ウ) 建物所有目的ではない土地賃貸借の場合や一時使用目的の土地賃貸借については,借地借家法の規定が適用されません(同法第1条,第25条)。
これらの場合の土地賃貸借については,民法の規定が適用されることとなり,期間満了により建物賃貸借契約が終了します(民法第622条,第597条第1項)。
そのため,期間満了をもって,土地明渡しなどを求めることができます。

ウ 前記ア(イ)の「借地借家法の適用のある土地賃貸借の場合」

(ア) 借地借家法の適用のある土地賃貸借の場合における期間満了を理由とする土地明渡しなどの請求については,設定された借家権の種類ごとに取扱いが異なってきます。
借家権の種類には,以下のa.及びb.があります。
a. 普通借地権
b. 定期借地権

(イ) 前記(ア)b.の「定期借地権」には,以下のa.~c.があります。
a. 一般定期借地権
b. 事業用定期借地権
c. 建物譲渡特約付借地権

エ 前記ウ(ア)aの「普通借地権」の場合

(ア) 普通借地権とは
普通借地権とは,法定更新制度の適用のある借地権をいいます。
普通借地権の存続期間は,契約で30年より長い期間を定めた場合にはその期間,そうでない場合には30年です(借地借家法第3条)。

(イ) 普通借地権における更新請求,法定更新と異議
a. 借地権の存続期間が満了する場合において,借地権者(賃借人,借主,借地人)が契約の更新を請求したときは,建物がある場合に限り,建物の存続期間の点を除き,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借地法第5条第1項本文,第4条)。
もっとも,借地権設定者(賃貸人,貸主,地主)が遅滞なく後記(ウ)記載の正当事由を具備した異議を述べたときは,契約は更新されません(借地借家法第5条第1項ただし書)。

b. 借地権の存続期間満了後も借地権者(賃借人,借主,借地人)が土地の使用を継続するときにも,建物の存続期間の点を除き,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借地法第5条第2項・第1項本文,第4条)。
これを法定更新といいます。
もっとも,借地権設定者(賃貸人,貸主,地主)が遅滞なく後記(ウ)記載の正当事由を具備した異議を述べたときは,契約は更新されません(借地借家法第5条第2項・第1項ただし書)。

(ウ) 更新請求,法定更新に対する異議における正当事由の具備の必要性
a. 借地権設定者(賃貸人,貸主,地主)が借地権者(賃借人,借主,借地人)に対して行う場合の前記(イ)a.及びb.の異議については,正当事由を具備していることが必要です(借地借地法第6条)。
正当事由の有無については,「土地の使用を必要とする事情」が基本的判断要素となります。
また,以下の(a)~(c)の事情が付随的な判断要素となります。
(a) 借地に関する従前の経過
(b) 土地の利用状況
(c) 借地権設定者(賃貸人,貸主,地主)が土地の明渡しの条件としてまたは建物の明渡しと引換えに借地権者(賃借人,借主,借地人)に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出

b. 前記(イ)a.もしくはb.または(ウ)a.の要件を充たさなくても期間満了となるといった,賃借人に不利な特約は無効となります(借地借地法第9条)。
よほどの事情がない限り,正当事由を具備したということにはならない扱いとなっておりますが,前記(イ)a.及び(ウ)a.の要件を充たした場合か前記(イ)b.及び(ウ)a.の要件を充たした場合には,期間満了を理由とする土地明渡しなどを求めることができます。

c. なお,更新請求または法定更新の場合の借地権の存続期間は,借地権の設定後の最初の更新にあっては20年,それ以外の更新の場合には10年となります(ただし,当事者がこれより長い期間を定めたときは,その期間となります。)。

オ 前記ウ(イ)aの「一般定期借地権」の場合

(ア) 一般定期借地権とは
a. 定期借地権とは,法定更新制度や建物買取請求権の適用がなく,一定の期間の満了により土地が必ず地主に返ってくる形の借地権をいいます。
b. 一般定期借地権とは,定期借地権のうち,借地権の存続期間を50年以上とし,その期間が満了しても契約の更新ができない借地権をいいます。
c. 一般定期借地権を設定するには,公正証書によるなど書面によって契約をする必要があります(借地借地法第22条後段)。

(イ) 一般定期借地権における期間満了
一般定期借地権において,借地権存続期間が満了する前に借地権設定者(賃貸人,貸主,地主)と借地権者(賃借人,借主,借地人)との間でその存続期間を延長することは可能ですし,再び一般定期借地権の設定を合意することも可能です。
もっとも,このような合意がなされない限り,期間満了を理由として,土地明渡しなどを求めることができます。

カ 前記ウ(イ)bの「事業用定期借地権」の場合

(ア) 事業用定期借地権とは
a. 事業用定期借地権とは,定期借地権のうち,もっぱら事業の用に供する建物(居住のように供するものを除く。)の所有を目的とする定期借地権で,存続期間は10年以上50年未満とされるものをいいます。

b. 事業用定期借地権を設定するには,公正証書によって契約をする必要があります(借地借地法第23条第3項)。

(イ) 事業用定期借地権における期間満了
事業用定期借地権において,借地権存続期間が満了する前に借地権設定者(賃貸人,貸主,地主)と借地権者(賃借人,借主,借地人)との間でその存続期間を延長することは可能ですし(ただし,延長したことにより事業用定期借地権の存続期間が50年を超えることとなる場合にはその延長は許されません。),再び事業用定期借地権の設定を合意することも可能です。
もっとも,このような合意がなされない限り,期間満了を理由として,土地明渡しなどを求めることができます。

キ 前記ウ(イ)dの「建物譲渡特約付借地権」の場合

(ア) 建物譲渡特約付借地権とは
建物譲渡特約付借地権とは,定期借地権のうち,借地権設定後30年以上経過した日に借地上の建物を借地権設定者(賃貸人,貸主,地主)に相当な対価で譲渡する旨の特約を借地権に付すことにより,設定から30年以上後に消滅させることが可能な借地権をいいます。

(イ) 建物譲渡特約付借地権における期間満了
a. 建物譲渡特約付借地権においては,期間満了とともに借地権が消滅する一方で建物が借地権設定者(賃貸人,貸主,地主)に譲渡されることから,期間満了を理由とする土地明渡しなどの請求は生じません。

b. 他方,事前に借地権者(賃借人,借主,借地人)と借地権者(賃借人,借主,借地人)または建物の賃借人(借主,借家人)との間で定期借家契約を設定しておらず,かつ建物譲渡特約により借地権が消滅した場合において,その借地権者(賃借人,借主,借地人)または建物の賃借人(借主,借家人)でその消滅後建物の使用を継続しているものが請求をしたときは,請求の時にその建物につきその借地権者(賃借人,借主,借地人)または建物の賃借人(借主,借家人)と借地権設定者(賃貸人,貸主,地主)との間で期間の定めのない賃貸借(借地権者(賃借人,借主,借地人)が請求をした場合において,借地権の残存期間があるときは、その残存期間を存続期間とする賃貸借)がされたものとみなされます(借地借家法第24条第2項前段)。

これを,法定借家権といいます。
法定借家権が成立する場合の建物の借賃は,当事者の請求により,裁判所が定めることになります(同項後段)。
また,この場合,期限の定めのない普通借家権が設定されたこととなるので,建物の賃貸人(貸主,大家)が建物の賃借人(借主,借家人)に対し建物明渡しを求めることができるかどうかについては,普通借家権が設定された場合と同様です(具体的には,前記5(5)エ及び5(6)をご参照ください。)。

c. 事前に借地権者(賃借人,借主,借地人)と借地権者(賃借人,借主,借地人)または建物の賃借人(借主,借家人)との間で定期借家契約を設定していた場合には,定期借家契約が締結されたことになります(借地借家法第24条第3項)。
この場合,建物の賃貸人(貸主,大家)が建物の賃借人(借主,借家人)に対し建物明渡しを求めることができるかどうかについては,定期借家権が設定された場合と同様です(具体的には,前記5(4)オ,5(5)オ及び5(6)をご参照ください。)。

(5) 合意解約を理由とする賃貸借契約終了に基づく土地明渡しなどの請求

借地借地法の適用がある土地賃貸借契約などの場合であっても,賃貸人(貸主,地主)と賃借人(借主,借地人)が賃貸借契約を合意解約することについてはなんらの制限もありません。
そのため,合意解約を理由として賃貸借契約終了に基づき土地明渡しなどを求めることができます。

(6) 使用貸借契約終了に基づく建物明渡請求

ア 使用貸借の終了事由

使用貸借は,以下の(ア)~(ウ)の場合,当然に終了します。
(ア) 当事者が使用貸借の期間を定めた場合に,その期間が満了した場合(民法第596条第1項)
(イ) 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合に,使用及び収益の目的を定めたときに,借主がその目的に従い使用及び収益を終えたとき(同条第2項)
(ウ) 借主が死亡したとき(同条第3項)

イ 使用貸借の解除事由

(ア) 以下のa.~e.の場合,貸主は使用貸借契約を解除することができます。
a. 書面による使用貸借ではない場合で,借主が建物の引渡しを受け取るまでの間(民法第593条の2)
b. 借主が,契約または目的物の性質によって定まった用法に従った使用収益をする義務に違反したとき(民法第594条第1項・第3項)
c. 借主が,貸主の承諾を得ることなく第三者に対し借用物の使用収益をさせたとき(同条第2項・第3項)
d. 当事者が使用貸借の期間を定めなかった場合に,使用及び収益の目的を定めたときに,その目的に従い借主が使用及び収益をするのに足りる期間を経過したとき(民法第598条第1項,第597条第2項)
e. 当事者が使用貸借の期間及び使用収益の目的を定めなかったとき(民法第598条第2項)

(イ) 借主はいつでも使用貸借契約を解除することができます(民法第598条第3項)。

ウ まとめ

前記アの各規定に基づき使用貸借が当然に終了した場合または前記イの各規定に基づき使用貸借契約が解除されたことにより同契約が終了した場合には,貸主は借主に対し土地明渡しを求めることができます。

(7) 占有主体とその特定

土地明渡し,建物収去土地明渡しまたは建物退去土地明渡しを求める場面においても,占有主体特定の必要があることなどについては,建物明渡しを求める場面と同様です。
詳細は,前記5(8)をご参照ください。

(8) 占有移転禁止の仮処分命令申立てなど

ア 土地明渡請求の場合

(ア) 土地についての占有移転禁止の仮処分命令申立ての必要性
保全命令の一種である占有移転禁止の仮処分命令が発令された上でそれに基づく保全執行*15が発令されることなく,土地の賃貸人(貸主,地主)が土地の賃借人(借主,借地人)などの土地の占有者に対し土地明渡請求訴訟を提起して勝訴判決を取得した場合であっても,その訴訟の口頭弁論終結前に土地の賃借人(借主,借地人)などの土地の占有者がその占有を第三者に移転していたときには,その第三者に対し土地の明渡しを求めることができません(この場合,その第三者に対し改めて土地明渡請求訴訟を提起する必要が生じます。)。
そこで,土地の占有者が占有を移転するおそれがある場合には,土地明渡請求訴訟を提起する前に,土地について占有移転禁止の仮処分命令を申し立てておく必要があります。

(イ) 占有移転禁止の仮処分命令などの効果
a. 土地についての占有移転禁止の仮処分命令を申し立て,裁判所に同命令を発出してもらった後は,すみやかに保全執行を申し立て,保全執行を行う必要があります。

b. 土地についての占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたときは,賃貸人(貸主,地主)は,土地明渡請求訴訟における判決などの債務名義に基づき,以下の(a)及び(b)に掲げる者に対し,係争物の引渡しまたは明渡しの強制執行をすることができるようになります(民事保全法第62条第1項)。
なお,以下の(b)は転借人など,賃借人(借主,借地人)など元の占有者から占有を譲り受けた者を指すのに対し,以下の(a)は不法占拠者など賃借人(借主,借地人)など元の占有者から占有を譲り受けることなく土地を占有した者を指します。
(a) 当該占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたことを知って当該係争物を占有した者
(b) 当該占有移転禁止の仮処分命令の執行後にその執行がされたことを知らないで当該係争物について債務者の占有を承継した者

c. 当該係争物について債務者の占有を承継した者(前記(イ)b)でない場合で,かつ当該占有移転禁止の仮処分命令の執行がされたことを知らずに当該係争物を占有した者に対しては,民事保全法第62条第1項の規定は適用されないこととなっています。
もっとも,「占有移転禁止の仮処分命令の執行後に当該係争物を占有した者」は,その執行がされたことを知って占有したものと推定されます(同条第2項)。

現実には,民事保全法第62条第1項の規定が適用されない場合というのはまず想定できません。
結局,土地について占有移転禁止の仮処分命令及び保全執行を経ることで,保全執行時の占有者を相手取って土地明渡請求訴訟を提起して判決などの債務名義を取得すれば,保全執行以後に土地の占有者が占有を第三者に移転したとしても,その第三者に対し改めて土地明渡しを求める必要はなくなります。

イ 建物収去土地明渡請求,建物退去土地明渡請求の場合

(ア) 建物についての処分禁止の仮処分命令申立ての必要性
保全命令の一種である建物の処分禁止の仮処分命令が発令された上でそれに基づく保全執行が発令されることなく,土地の賃貸人(貸主,地主)が建物を所有して土地を占有する者に対し建物収去土地明渡請求訴訟を提起して勝訴判決を取得した場合であっても,その訴訟の口頭弁論終結前に建物を所有して土地を占有する者が建物の所有権を第三者に移転するなど建物を処分していたときには,その第三者に対し建物収去土地明渡しを求めることができません(この場合,その第三者に対し改めて建物収去土地明渡請求訴訟を提起する必要が生じます。)。
そこで,建物を所有して土地を占有する者が建物を処分するおそれがある場合には,土地明渡請求訴訟を提起する前に,建物について処分禁止の仮処分命令を申し立てておく必要があります。

(イ) 処分禁止の仮処分命令などの効果
a. 建物について処分禁止の仮処分命令を申し立て,裁判所に同命令を発出してもらっうと,処分禁止の登記がなされることにより,その処分が執行されることになります(民事保全法第55条第1項)。

b. 建物について処分禁止の仮処分命令の執行がされた(処分禁止の登記がされた)ときは,賃貸人(貸主,地主)は,建物収去土地明渡請求訴訟における判決などの債務名義に基づき,処分禁止の登記がされた後に建物を譲り受けた者に対し,建物の収去及びその敷地の明渡しの強制執行をすることができます(民事保全法第64条)。

c. 結局,建物について処分禁止の仮処分命令及び執行を経ることで,保全執行時の建物所有者を相手取って建物収去土地明渡請求訴訟を提起して判決などの債務名義を取得すれば,仮処分執行以後に建物所有者が建物の所有権を第三者に移転するなどしたとしても,その第三者に対し改めて建物収去土地明渡しを求める必要はなくなります。

(ウ) 建物についての占有移転禁止の仮処分命令申立ての必要性
建物について処分禁止の仮処分命令やその執行がなされたとしても,建物について占有移転禁止の仮処分命令やその執行がなされていない場合には,建物収去土地明渡請求訴訟において口頭弁論終結前に建物の占有者が第三者に対し建物の占有を移転してしまえば,その第三者に対し建物退去土地明渡しを求めることができないことについては,前記ア(ア)と同様です。
そのため,建物収去土地明渡しを求める場合,建物について処分禁止の仮処分命令を申し立てると同時に,建物の占有者に対して,占有移転禁止の仮処分命令申立てを行う必要があります。

(エ) 土地についての占有移転禁止の仮処分命令申立ての必要性
a. 建物の処分禁止の仮処分命令の効力は,現実に建物が建っている土地の敷地部分に及びます。
そのため,1筆の土地のうちの大部分が建物の敷地となっているような場合には,建物について処分禁止の仮処分命令を申し立てておけば,土地について占有移転禁止の仮処分命令を申し立てる必要はありません。

b. 他方,1筆の土地のうちの一部分だけが建物の敷地になっているにすぎず,残余の部分が別途独立に占有することができる土地であるような場合には,その部分の占有が移転されることのないように,土地について占有移転禁止の仮処分命令申立てを行う必要があります。

(9) 土地明渡しなどの強制執行

ア 土地明渡請求の場合

(ア) 土地明渡しを認める判決が下された場合でも,賃借人(借主)などの土地の占有者が任意に明け渡さない事態は多々生じます。
このような場合,土地明渡しの強制執行の申立てが必要になります。

(イ) 土地明渡しを認める判決などの債務名義に執行文を付与してもらうなどした上で土地明渡しの強制執行を申し立てた後,1か月以内に土地を明け渡すよう明渡しの催告を行った上で,明渡断行がなされます。
明渡断行の際に占有者の荷物が残置されていた場合には,その残置物を1か月ほど倉庫で保管した後に廃棄される取扱いが多くなっています。

(ウ) 土地上に残置物が存在する場合には,明渡断行及び残置物の保管に関し執行業者への支払に要する費用はかなり多額になりますので,建物収去土地明渡しを求める場合には,この点を念頭に置かなければなりません。

イ 建物収去土地明渡請求及び建物退去土地明渡請求の場合

(ア) 建物収去土地明渡しを認める判決が下された場合でも,建物を所有して土地を占有する者が任意に建物を収去して土地を明け渡さなかったり,建物の占有者が建物を退去しなかったりする事態は多々生じます。
このような場合,建物収去土地明渡しを実現するために,強制執行手続が必要になります。

(イ) 建物収去土地明渡しを認める判決などの債務名義に執行文を付与してもらうなどし,また解体業者2社以上からの見積書を取得するなどした上で,執行裁判所に対し,建物収去命令及び代替執行費用支払を申し立てます。
執行裁判所から建物収去命令及び代替執行費用支払命令を得た上で,執行官に対し,強制執行を申し立てます。

(ウ) 1か月以内に建物を収去して土地を明け渡すよう,また建物を退去するよう建物収去土地明渡しの催告を行った上で,建物収去土地明渡断行(解体業者による解体など)がなされます。
明渡断行の際に占有者の荷物が残置されていた場合には,その残置物を1か月ほど倉庫で保管した後に廃棄される取扱いが多くなっています。

(エ) 建物収去土地明渡断行及び残置物の保管に関し執行業者への支払に要する費用はかなり多額になりますので,建物収去土地明渡しを求める場合には,この点を念頭に置かなければなりません。


賃貸借契約

「賃貸借契約」とは,一方当事者(賃貸人,貸主,大家,地主)が,ある目的物を相手方(賃借人,借主,借地人,借地人)に使用収益させて対価(地代,賃料など)を受け取る契約(お金を払って貸してもらう契約)をいいます。

使用貸借契約

「使用貸借契約」とは,一方当事者(借主)が無償で使用収益した後に返還することを約束して,相手方(貸主)からある目的物を受け取ることを内容とする契約(無料で貸してもらう契約)をいいます。

賃料相当損害金

「賃料」は,賃貸借契約に基づき,支払う必要があるもののため,賃貸借契約が解除などにより終了した後には「賃料」の支払義務はありません。
しかし,賃貸借契約終了後の元賃借人が建物を明け渡さず建物を利用している場合には,これまで負担していた賃料と同額の損害を与えていることとなるので,「賃料」と同額の「賃料相当損害金」の支払義務を負うこととなります。

抗弁

「抗弁」とは,民事訴訟において,原告の請求の根拠となる事実(請求原因事実)と両立しつつ,請求原因から生じる法律的な効果を排斥する主張をいいます。
例えば,AがBに対しお金を貸したと主張して貸金の返還を求める場合に,最後の貸し借りから10年以上が経過しているとして消滅時効を援用するという被告の主張が「抗弁」にあたります。

再抗弁

「再抗弁」とは,民事訴訟において,被告の抗弁に対し,被告の抗弁と両立しつつ,抗弁から生じる法律的な効果を排斥する主張をいいます。
例えば,AがBに対しお金を貸したと主張して貸金の返還を求める場合に,被告から最後の貸し借りから10年以上が経過しているとして消滅時効を援用するという抗弁を出されたのに対し,3年前に貸金請求訴訟を提起して消滅時効は中断しているという原告の主張が「再抗弁」にあたります。

保全命令

「保全命令」とは,民事保全法に規定された民事保全の命令のことをいいます。
保全命令には,仮差押命令と仮処分命令とがあります。

保全執行

「保全執行」とは,保全命令手続で出された保全決定の内容を具体的に実現する手続です。

執行文

「執行文」とは,民事執行手続において,請求権が存在し,強制執行できる状態であることを公証するために、裁判所書記官が付与する文言のことをいいます。
「債権者は,債務者に対し,この債務名義に基づき強制執行することができる。」という内容の執行文言が付されることで,強制執行が可能になります。

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