川崎パシフィック法律事務所

【個人の債務整理】(5)手続選択の基準

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【個人の債務整理】(5)手続選択の基準

【個人の債務整理】(5)手続選択の基準

ア 手続選択の基準一般論

自己破産手続,個人再生手続,任意整理手続または過払金回収手続のいずれの方法を選択するかについては,弁護士と依頼者の方との間で協議した上で決める事項のため一義的に決まるものではありません。
また,貸金業者からの取引履歴の開示を受けた後に利息制限法所定の利率で引き直した金額がいくらになるかを踏まえた上でなければ最終的には決められないことも多くなっております。
もっとも,一般論としては以下のとおりです。

イ 自己破産手続

自己破産手続は,裁判所から免責許可決定を得ることができれば借金を全く支払わなくてよいこととなるため利用しやすい手続となっています。
そのため,貸金業者との間での取引期間が短くて利息制限法所定の利率に引き直しても(「引直計算」/詳細は「(4)債務整理の方法」「*4」をご確認ください。)なお多額の返済が残るような場合には,原則として自己破産手続を利用することをお勧めしております。
自己破産手続の詳細については,「【個人の債務整理】(6)自己破産手続」をご参照ください。

ウ 個人再生手続

個人再生手続は,住宅資金特別条項を活用することで,住宅ローンを抱えた方が住宅ローンについてはそのまま支払うことで住宅を維持しながら債務を圧縮する場合に有用です。
そのほか,免責不許可事由があって裁量免責を得ることも難しいような場合,公務員の方のように財形貯蓄等の財産を多く有している方の場合等についてもお勧めすることがあります。
もっとも,住宅ローンを抱えている方でも住宅ローンの返済が重荷となって消費者金融会社等からの借金が増大したような方の場合には自己破産手続をお勧めしております。
個人再生手続の詳細については,「【個人の債務整理】(7)個人再生手続」をご参照ください。

エ 任意整理手続

任意整理手続を選択した場合,「クレジット・サラ金処理の東京三弁護士会統一基準」に従い債権者と和解交渉をしていくことになります。
しかし,近時,貸金業者が経営状態の悪化に伴い強硬な姿勢を崩さないことが多くなったことから,利息制限法所定の法定利率に引き直しても多額の残債務が残るような場合にはこの手続を利用することが困難になりつつあります。
そのため,利息制限法所定の法定利率に引き直したときに過払金回収により残債務額を一括返済できたり残債務額が少額となったりするような場合について利用をお勧めすることになります。
任意整理手続の詳細については,「【個人の債務整理】(8)任意整理手続」をご参照ください。

オ 過払金回収手続

過払金回収手続は,利息制限法所定の利率で引き直して計算したときに過払いとなる場合に行うものです。
過払金回収手続の詳細については,「【個人の債務整理】(9)過払金回収手続」をご参照ください。

カ 手続選択の補足

これらの手続選択の基準についてはあくまで原則論であり,実際には,債権者の一部について過払金が発生することもあり,過払金回収後に自己破産手続や個人再生手続を利用することもあります。


取引履歴

「取引履歴」とは,貸金業者と債務者との間で,いついくら借入をして,いついくら返済したかについて時系列に沿って記録化したものです。
貸金業者との間でいついくら借入をして,いついくら返済したかについて正確な記憶を有している債務者の方はほぼ皆無ですが,「引直計算」を行うには貸金業者と債務者との間で,いついくら借入をして,いついくら返済したかについて正確な記録が必要になります。
そこで,貸金業者からこの取引履歴の開示を受ける(取引履歴を取り寄せる)ことが個人の債務整理のスタートとなります。
取引履歴については貸金業者に保存義務が定められており(貸金業法19条),また保存している取引履歴については開示義務も定められておりますので(貸金業法19条の2),開示を完全に拒絶する貸金業者は最近ではほとんどありません。

個人再生手続

「個人再生手続」には小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類の手続があります。
 しかし,給与所得者等再生では可処分所得額の2年分以上を弁済原資として弁済する必要があって,弁済総額が多額になることが多く,まず利用するメリットがありません。
 そこで,ここでは,個人再生手続とは小規模個人再生のことのみを指すものとして説明しています。

住宅資金特別条項

個人再生手続において,自分の居住用住宅についての住宅ローンを支払中の物件を維持しながら,他の債務を圧縮するのに有用なのが,住宅資金特別条項を活用する方法です。
 住宅資金特別条項を活用する場合,住宅ローンについてはそれまでの住宅ローン債権者との取り決めどおり支払ってもらう形となるのが一般的です。

免責不許可事由

「免責」(破産法253条1項本文)とは,破産者の残債務についての責任を免除してもらうことで,平たくいうと,借金をチャラにしてもらうことになります。
破産を申し立てた場合,免責不許可事由がない限り,原則として免責されることになります(同法252条1項)。
もっとも,免責不許可事由がある場合には,裁量免責されないかぎり免責が許可されない(借金をチャラにしてもらえない)ということになります。
免責不許可事由として定められているものは以下のとおりです。

① 債権者を害する目的で財産を隠したりした場合(同法252条1項1号)
② 支払不能状態にあるにもかかわらず,それを隠す目的で,著しく不利益な条件で債務を負担したり,信用取引により商品を買い入れて著しく不利益な条件で処分した場合(同項2号)
③ 特定の債権者に対する債務について,その債権者に特別の利益を与える目的または他の債権者を害する目的で,担保を与えたり債務を消滅させたりした場合(同項3号)
④ 浪費・ギャンブル等によって著しく財産を減少させたり,過大な債務を負担した場合(同項4号)
⑤ 支払不能状態にあるにもかかわらず,支払不能状態ではないと信じさせる行為を行って信用取引により商品を買い入れた場合(同項5号)
⑥ 商業帳簿に不公正な記載をしたような場合(同項6号)
⑦ 破産者が裁判所や破産管財人等に対し,財産や負債についてうその申告等をした場合(同項7~9号)
⑧ 前回の免責許可決定の確定等から7年経っていない場合(同項10号)

裁量免責

免責不許可事由がある場合には免責されないのが原則となります。
しかし,免責不許可事由があっても,破産者の情状(誠実性)や不許可事由の程度等より免責すべきと裁判所が考えたときには,免責を許可してもらうことができ,これを裁量免責と呼んでいます。
免責不許可事由がある場合に免責を許可してもらうことができるのは,本来,例外的なものということになっていますが,実際には,この裁量免責により幅広く免責を許可してもらうことができています。

クレジット・サラ金処理の東京三弁護士会統一基準

弁護士が債務整理の依頼を受けた際,以下の事項を守るよう定めているのが,「クレジット・サラ金処理の東京三弁護士会統一基準(三会基準)」です。
① 当初の取引よりすべての取引履歴の開示を求めること
② 利息制限法に基づく引直計算を行い債権額を確定すること(確定時は貸金業者と債務者との最終取引日(借入または返済)とする)
③ 任意整理における和解案(弁済案)の提示にあたっては,貸金業者と債務者との最終取引日(借入または返済)以降の利息をつけないこと
④ (1) クレジット会社の立替代金債権額の確定にあたっては,手数料を差し引いた商品代金額を元本として利息制限法所定の利率によって算出された元本額を超えないよう注意すること
  (2) 貸金債務が債権者と同一系列の保証会社に履行されて求償債権になった場合,保証会社の求償債権額は,本来の貸金債権額まで減額すること
  (3) 非弁提携弁護士によって和解が成立した事案については,この和解が利息制限法に違反していないかを十分に調査すること

貸金業者にもこの三会統一基準は認知されています。
しかし,近時,この基準に従おうとしない貸金業者が増えており,任意整理業務遂行を困難にさせています。

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