川崎パシフィック法律事務所

5 成年後見・保佐・補助開始申立て

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5 成年後見・保佐・補助開始申立て

5 成年後見・保佐・補助開始申立て

(1)法定後見(成年後見) と任意後見

ア 法定後見(成年後見)

(ア)人は自己の権利義務関係を自由な意思決定により自ら規律することができるという,意思自治の原則が採用されています。
もっとも,それだけでは判断能力が十分でない方の保護に欠けるため,判断能力が十分でない未成年者,成年被後見人,被保佐人,被補助人を定型的に制限行為能力者とすることで,未成年者などの制限行為能力者が単独で法律行為をした場合にこれを取り消すことができるようにするなどして,判断能力の不十分な方を保護しています。
このうち,未成年者を除いた成人を対象とする制度が,法定後見(成年後見)制度です。

(イ)法定後見(成年後見)制度には,ご本人(被後見人,被保佐人,被補助人)の判断能力に応じて,以下のa.~c.の類型が設けられています。
a. 成年後見
b. 保佐
c. 補助

イ 任意後見

ご本人と任意後見受任者との間であらかじめ締結された任意後見契約の内容に従って,任意後見契約発効後に任意後見人がご本人の財産管理を行うものが,任意後見制度です。

(2)法定後見(成年後見)の必要性

ア 法定後見(成年後見)が必要な場面

ご本人の判断能力が既に低下してしまっている場合には,以下の(ア)~(オ)の各場面などで,法定後見(成年後見)が必要になります。

(ア)預貯金などの財産の管理・解約
(イ)施設入所契約などの介護保険契約
(ウ)介護保険契約以外の身上監護
(エ)不動産の処分
(オ)遺産分割などの相続手続

イ 前記ア(ア)の「預貯金などの財産の管理・解約」の場面

ご本人が預貯金などの財産を適切に管理できなくなっているときには,成年後見人などが代わりに管理する必要があります。
また,金融機関が,ご本人の判断能力が乏しいと判断した場合には,ご本人による預貯金などの解約手続に応じないこともあり,成年後見人が解約手続などを行う必要が生じることもあります。

ウ 前記ア(イ)の「施設入所契約などの介護保険契約」の場面

ご本人の判断能力が乏しい場合に,ご本人に親族がいないときには,成年後見人などが施設入所契約などの介護保険契約を行う必要が生じます。
また,ご本人に親族がいるときであっても,親族にはご本人を代理する権限がないことから,親族を契約者とする施設入所契約などの介護保険契約を受け容れない施設も増えていますので,このようなときでも成年後見人などが施設入所契約などの介護保険契約を行う必要が生じることがあります。

エ 前記ア(ウ)の「介護保険契約以外の身上監護」の場面

施設入所契約などの介護保険契約以外にも,要介護認定の申請手続,病院への入院手続や住居の確保など,判断能力が乏しくなった方では行うことが難しい手続はあり,成年後見人などがご本人に代わって(またはご本人を助けて)行う必要が生じることもあります。

オ 前記ア(エ)の「不動産の処分」の場面

ご本人が所有する自宅の売却や賃貸用不動産の管理などは,判断能力に乏しくなった方では行うことが難しく,またこれらの手続は親族が代わって行うことはできませんので,成年後見人などがご本人に代わって(またはご本人を助けて)行う必要が生じることもあります。

カ 前記ア(オ)の「遺産分割などの相続手続」の場面

遺産分割などの相続手続についても,判断能力に乏しくなった方では難しく,またこれらの手続は親族が代わって行うことはできませんので,成年後見人などがご本人に代わって(またはご本人を助けて)行う必要が生じることもあります。

(3)成年後見

ア 後見開始の申立て

(ア)後見開始の申立てとは
後見開始の申立てとは,ご本人について成年後見を開始するとともに後見人を選任するよう,家庭裁判所に対し申し立てることをいいます。

(イ)管轄
後見開始の申立ては,ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います(家事審判規則第22条)。

(ウ)申立権者
a. 後見開始の申立てにおける申立権者は,原則として,ご本人,配偶者,4親等内の親族,未成年後見人,未成年後見監督人,保佐人,保佐監督人,補助人,補助監督人,検察官に限られます(民法第7条)。

ご本人が申立権者である以上,ご本人が弁護士に委任して当該弁護士がご本人の代理人として後見開始を申し立てることも可能です。
ご本人の収入・資産が乏しい場合には,後見開始の申立てについて日本司法支援センター(法テラス)を利用することも可能ですが,後見開始の申立てに関しては,ご本人は弁護士に同申立てを委任する能力に欠けるということで,日本司法支援センター(法テラス)を利用することができないことに注意が必要です。

この場合,他の親族を申立人とするか,以下のb.に記載する首長申立てを促すことになります。
b. 市町村長は,以下の(a)~(c)のいずれにかに該当する場合には,後見開始の申立権者となります(これを「首長申立て」といいます。)。
(a)「65歳以上の者につき,その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」(老人福祉法第32条)
(b)「知的障害者につき,その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」(知的障害者福祉法第28条)
(c)「精神障害者につき,その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第51条の11の2)

(エ)申立てにおいてご本人の同意が不要であること
ご本人以外の者が申立人となった場合における後見開始の申立てに際しても,ご本人の同意は必要ありません(後見開始の審判について規定した民法第7条には,補助開始の審判においてご本人の同意について規定した民法第17条第2項のような規定が設けられていません。)。

イ 後見開始の要件

(ア)後見開始の要件は,「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」に該当することです(民法第7条)。
「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者」とは,身体上の障害を除くすべての精神的障害(知的障害,精神障害,認知症,外傷性脳機能障害など)により,法律行為の結果が自己にとって有利か不利かを判断することができない程度の判断能力にある者をいいます。

(イ)後見開始などの申立てにおいては,「診断書(成年後見制度用)」を添付することが求められますが,この診断書には「判断能力についての意見」という項目において,以下のa.~d.のいずれかにチェックする欄が設けられています。
一般的には,このうち,以下のd.に該当する場合が,後見相当と考えられています(ただし,最終的に後見相当かどうかを判断するのは家庭裁判所であり,医師の診断が絶対視されるわけではありません。)。
a. 契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができる。
b. 支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することが難しい場合がある。
c. 支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない。
d. 支援を受けても,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない。

ウ 後見人の権限

(ア)包括的代理権
a. 後見人には,被後見人の財産行為全般についての包括的代理権が付与されています。
b. しかし,後見人の包括的代理権も,以下の(a)~(f)の場合には一定の制限を受けます。
(a)居住用不動産を処分する場合に家庭裁判所の許可を要すること(民法第859条の3)
(b)被後見人の行為を目的とする債務を負担する場合に被後見人の同意を要すること(民法第859条第2項,第824条ただし書)
(c)後見監督人が選任されている場合に,後見人が被後見人に代わって営業または民法第13条第1項各号に掲げる行為(後記(4)ウ(ア)a.(c)ⅰ.~ⅹ.記載の行為)をするときに,後見監督人の同意を得なければならないこと(ただし,元本の領収を除く。/民法第864条)
(d)権限分掌の定めがある場合(民法第859条の2第1項)における,権限外の行為
(e)後見人と被後見人との利益とが相反する場合には,後見人には代理権がなく,後見監督人がいないときは,特別代理人を選任し,これに代理行為をさせなければならないこと(民法第860条,第826条)
(f)婚姻・離婚・認知・養子縁組・遺言などの身分行為の代理ができないこと
(イ)取消権

後見人には,代理権のほかに,日用品の購入その他日常生活に関する行為を除いて被後見人が行った法律行為について取消権が付与されます(民法第9条,第120条第1項)。

エ 後見人の職務内容

(ア)後見人の職務内容と身上配慮義務
a. 後見人の職務内容は,以下の(a)及び(b)です。
(a)身上監護
(b)財産管理
b. 「成年後見人は,成年被後見人の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては,成年被後見人の意思を尊重し,かつ,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければな」りません(民法第858条)。
これを,身上配慮義務といいます。

(イ)身上監護
a. 身上監護とは,被後見人の生活の維持や医療,介護など,身上の保護に関する法律行為を行うことをいいます。
b. 後見人の身上監護には,介護サービス契約,施設入所契約,医療や教育に関する契約の選定やその締結,解除が含まれます。
また,これらの契約に基づく費用の支払やサービスの履行状況の確認など,これらの契約に伴う事実行為なども含まれます。
もっとも,実際に被後見人を介護することまでは含まれません。

(ウ)財産管理
後見人の財産管理には,被後見人の財産全般を把握し,前記ウ(ア)記載の包括的代理権を行使することによってこれらの財産を保存したり,一定の範囲で被後見人のために利用することが含まれます。

(4)保佐

ア 保佐開始の申立て

(ア)保佐開始の申立てとは
保佐開始の申立てとは,ご本人について保佐を開始するとともに保佐人を選任するよう,家庭裁判所に対し申し立てることをいいます。

(イ)管轄
保佐開始の申立ては,ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います(家事審判規則第22条)。

(ウ)申立権者
a. 保佐開始の申立てにおける申立権者は,原則として,ご本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,後見監督人,補助人,補助監督人,検察官に限られます(民法第11条)。
ご本人が申立権者である以上,ご本人が弁護士に委任して当該弁護士がご本人の代理人として保佐開始を申し立てることも可能です。
ご本人の収入・資産が乏しい場合には,保佐開始の申立てについて日本司法支援センター(法テラス)を利用することも可能ですし,この場合にはご本人が弁護士に委任して保佐開始を申し立てる場合であっても日本司法支援センター(法テラス)を利用することが可能です。
b. 市町村長は,以下の(a)~(c)のいずれかに該当する場合には,保佐開始の申立権者となります(これを「首長申立て」といいます。)。
(a)「65歳以上の者につき,その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」(老人福祉法第32条)
(b)「知的障害者につき,その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」(知的障害者福祉法第28条)
(c)「精神障害者につき,その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第51条の11の2)

(エ)申立てにおいてご本人の同意が不要であること
ご本人以外の者が申立人となった場合における保佐開始の申立てに際しても,ご本人の同意は必要ありません(保佐開始の審判について規定した民法第11条には,補助開始の審判においてご本人の同意について規定した民法第17条第2項のような規定が設けられていません。)。

イ 保佐開始の要件

(ア)保佐開始の要件は,「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」に該当することです(民法第11条)。
「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である者」とは,身体上の障害を除くすべての精神的障害(知的障害,精神障害,認知症,外傷性脳機能障害など)により,民法第13条第1項各号に規定する重要な財産行為(後記ウ(ア)a.(c)ⅰ.~ⅹ.記載の行為)について,自分一人ではこれを適切に行うには不安があり,常に他人の援助を受ける必要がある程度の判断能力にある者をいいます。

(イ)保佐開始などの申立てにおいては,「診断書(成年保佐制度用)」を添付することが求められますが,この診断書には「判断能力についての意見」という項目において,以下のa.~d.のいずれかにチェックする欄が設けられています。

一般的には,このうち,以下のc.に該当する場合が,保佐相当と考えられています(ただし,最終的に保佐相当かどうかを判断するのは家庭裁判所であり,医師の診断が絶対視されるわけではありません。)。
a. 契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができる。
b. 支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することが難しい場合がある。
c. 支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない。
d. 支援を受けても,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない。

ウ 保佐人の権限

(ア)同意権,取消権
a. 民法第13条第1項各号所定の行為についての同意権,取消権
(a)被保佐人は,日用品の購入その他日常生活に関する行為を除き,民法第13条第1項各号所定の行為(後記(c)ⅰ.~ⅹ.記載の行為)を有効に行うためには,保佐人の同意が必要です(同項柱書)。
これを同意権といいます。
(b)被保佐人が保佐人の同意なくして民法第13条第1項各号所定の行為(後記(c)ⅰ.~ⅹ.記載の行為/ただし,日用品の購入その他日常生活に関する行為を除く。)をした場合には,保佐人及び被保佐人は,これを取り消すことができます(民法第13条第4項,第120条第1項)。
これを取消権といいます。
(c)保佐人の同意権,取消権の対象となる重要な財産行為には,以下のⅰ.~ⅹ.があります。
ⅰ. 元本を領収し,または利用すること(民法第13条第1項第1号)
ⅱ. 借財または保証をすること(同項第2号)
ⅲ. 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること(同項第3号)
ⅳ. 訴訟行為をすること(同項第4号)
ⅴ. 贈与,和解または仲裁合意をすること(同項第5号)
ⅵ. 相続の承認もしくは放棄または遺産の分割をすること(同項第6号)
ⅶ. 贈与の申込みを拒絶し,遺贈を放棄し,負担付贈与の申込みを承諾し,または負担付贈与を承認すること(同項第7号)
ⅷ. 新築,改築,増築または大修繕をすること(同項第8号)
ⅸ. 民法第602条に定める期間を超える賃貸借をすること(同項第9号)
ⅹ. 前記ⅰ.~ⅸ.記載の行為を,未成年者,成年被後見人,被保佐人または被補助人の法定代理人としてすること(同項第10号)

b. 保佐人の同意権及び取消権の拡張
(a)前記a.(c)ⅰ.~ⅹ.記載の行為以外の行為についても,保佐人の同意を要するものとする必要がある場合には,前記ア(ウ)a.記載の申立権者または保佐人もしくは保佐監督人の請求により,家庭裁判所は,日常生活に関する行為を除き,保佐人の同意を要する行為を拡張する審判をすることができます(民法第13条第2項)。
(b)被保佐人が,保佐人の同意なくして,前記(a)記載の拡張された保佐人の同意を要する行為(ただし,日用品の購入その他日常生活に関する行為を除く。)をした場合には,保佐人及び被保佐人は,これを取り消すことができます(民法第13条第4項,第120条第1項)。
このように,同意権が拡張されるときには,その分だけ取消権も拡張されることになります。

c. 同意に代わる許可
保佐人の同意を要する行為について,保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意しない場合には,被保佐人の請求によって,家庭裁判所が,保佐人の同意に代わる許可を与えることができます(民法第13条第3項)。
これを,同意に代わる許可といいます。

(イ)代理権
a. 代理権付与
保佐人には,当然には代理権が付与されません。
もっとも,前記ア(ウ)a.記載の申立権者または保佐人もしくは保佐監督人の請求により,家庭裁判所は,被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができます(民法第876条第1項)。
被保佐人以外の者の請求により上記審判をするには,ご本人の同意が必要です(同条第2項)。

b. 代理権の範囲
代理権の範囲については,被保佐人の保護の必要性に応じて個別具体的に定められます。

c. 代理権の制限
保佐人の代理権も,以下の(a)~(e)の場合には一定の制限を受けます。
(a)居住用不動産を処分する場合に家庭裁判所の許可を要すること(民法第876条の5第2項,第859条の3)
(b)被保佐人の行為を目的とする債務を負担する場合に被保佐人の同意を要すること(民法第876条の5第2項,第824条ただし書)
(c)保佐人と被保佐人との利益とが相反する場合には,保佐人には代理権がなく,保佐監督人がいないときは,特別代理人を選任し,これに代理行為をさせなければならないこと(民法第876条の2第3項)
(d)権限分掌の定めがある場合(民法第876条の5第2項,第859条の2第1項)における,権限外の行為
(e)婚姻・離婚・認知・養子縁組・遺言などの身分行為の代理ができないこと

エ 保佐人の職務内容

(ア)保佐人の職務内容と身上配慮義務
a. 保佐人の職務内容は,以下の(a)及び(b)です。
(a)身上監護
(b)財産管理

b. 「保佐人は,補佐の事務を行うに当たっては,被保佐人の意思を尊重し,かつ,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければな」りません(民法第876条の5第1項)。
これを,身上配慮義務といいます。

(イ)身上監護
a. 保佐人の身上監護とは,被保佐人の生活の維持や医療,介護など,身上の保護に関する法律行為を行うことをいいます。

b. 保佐人の身上監護には,保佐人が同意権や取消権を行使する場合(代理権が付与されている場合には代理権を行使する場合を含む。)における,介護サービス契約,施設入所契約,医療や教育に関する契約の選定やその締結,解除が含まれます。
また,これらの契約に基づく費用の支払やサービスの履行状況の確認など,これらの契約に伴う事実行為なども含まれます。
もっとも,実際に被保佐人を介護することまでは含まれません。

(ウ)財産管理
保佐人の財産管理には,保佐人が同意権や取消権を行使する場合(代理権が付与されている場合には代理権を行使する場合を含む。)における,被保佐人の財産状況を把握し,これらの財産を保存したり,一定の範囲で被保佐人のために利用することが含まれます。

(5)補助

ア 補助開始の申立て

(ア)補助開始の申立てとは
補助開始の申立てとは,ご本人について補助を開始するとともに補助人を選任するよう,家庭裁判所に対し申し立てることをいいます。

(イ)管轄
補助開始の申立ては,ご本人の住所地を管轄する家庭裁判所に対して行います(家事審判規則第22条)。

(ウ)申立権者
a. 補助開始の申立てにおける申立権者は,原則として,ご本人,配偶者,4親等内の親族,後見人,後見監督人,保佐人,保佐監督人,検察官に限られます(民法第15条第1項)。
ご本人が申立権者である以上,ご本人が弁護士に委任して当該弁護士がご本人の代理人として補助開始を申し立てることも可能です。
ご本人の収入・資産が乏しい場合には,補助開始の申立てについて日本司法支援センター(法テラス)を利用することも可能ですし,この場合にはご本人が弁護士に委任して補助開始を申し立てる場合であっても日本司法支援センター(法テラス)を利用することが可能です。

b. 市町村長は,以下の(a)~(c)のいずれかに該当する場合には,補助開始の申立権者となります(これを「首長申立て」といいます。)。
(a)「65歳以上の者につき,その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」(老人福祉法第32条)
(b)「知的障害者につき,その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」(知的障害者福祉法第28条)
(c)「精神障害者につき,その福祉を図るため特に必要があると認めるとき」(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第51条の11の2)
(エ)申立てにおいてご本人の同意が必要であること

ご本人以外の者が申立人となった場合における補助開始の申立てに際しては,ご本人の同意が必要です(民法第17条第2項)。

イ 補助開始の要件

(ア)補助開始の要件は,「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」に該当することです(民法第15条第1項)。
「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者」とは,身体上の障害を除くすべての精神的障害(知的障害,精神障害,認知症,外傷性脳機能障害など)により,民法第13条第1項各号に規定する重要な財産行為(前記(4)ウ(ア)a.(c)ⅰ.~ⅹ.記載の行為)について,自分一人ではこれを行うことは不可能ではないが,適切に行えないおそれがあるため,他人の援助を受けたほうが安心であるといった程度の判断能力にある者をいいます。

(イ)補助開始などの申立てにおいては,「診断書(成年補助制度用)」を添付することが求められますが,この診断書には「判断能力についての意見」という項目において,以下のa.~d.のいずれかにチェックする欄が設けられています。
一般的には,このうち,以下のb.に該当する場合が,補助相当と考えられています(ただし,最終的に補助相当かどうかを判断するのは家庭裁判所であり,医師の診断が絶対視されるわけではありません。)。
a. 契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができる。
b. 支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することが難しい場合がある。
c. 支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない。
d. 支援を受けても,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない。

ウ 補助人の権限

(ア)同意権,取消権
a. 前記ア(ウ)a.記載の申立権者または補助人もしくは補助監督人の請求により,家庭裁判所は,被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができます(民法第17条第1項本文)。
これを同意権といいます。
ただし,その審判により補助人の同意を得なければならないものとすることができる行為は,被補助人は,民法第13条第1項各号に規定する行為(前記(4)ウ(ア)a.(c)ⅰ.~ⅹ.記載の行為)の一部に限られます(民法第17条第1項ただし書)。
被補助人以外の者の請求により上記審判をするには,ご本人の同意が必要です(同条第2項)。

b. 被補助人が補助人の同意なくして補助人の同意を得なければならないものとされた行為をした場合には,補助人及び被補助人は,これを取り消すことができます(民法第17条第4項,第120条第1項)。
これを取消権といいます。

c. 同意に代わる許可
補助人の同意を要する行為について,補助人が被補助人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意しない場合には,被補助人の請求によって,家庭裁判所が,補助人の同意に代わる許可を与えることができます(民法第17条第3項)。
これを,同意に代わる許可といいます。

(イ)代理権
a. 代理権付与
補助人には,当然には代理権が付与されません。
もっとも,前記ア(ウ)a.記載の申立権者または補助人もしくは補助監督人の請求により,家庭裁判所は,被補助人のために特定の法律行為について保補助に代理権を付与する旨の審判をすることができます(民法第876条の9第1項)。
被補助人以外の者の請求により上記審判をするには,ご本人の同意が必要です(同条第2項,第876条の4第2項)。

b. 代理権の範囲
代理権の範囲については,被補助人の保護の必要性に応じて個別具体的に定められます。

c. 代理権の制限
補助人の代理権も,以下の(a)~(e)の場合には一定の制限を受けます。
(a)居住用不動産を処分する場合に家庭裁判所の許可を要すること(民法第876条の8第2項,第859条の3)
(b)被補助人の行為を目的とする債務を負担する場合に被補助人の同意を要すること(民法第876条の10第1項,第824条ただし書)
(c)補助人と被補助人との利益とが相反する場合には,補助人には代理権がなく,補助監督人がいないときは,特別代理人を選任し,これに代理行為をさせなければならないこと(民法第876条の7第3項)
(d)権限分掌の定めがある場合(民法第876条の5第2項,第859条の2第1項)における,権限外の行為
(e)婚姻・離婚・認知・養子縁組・遺言などの身分行為の代理ができないこと

エ 補助人の職務内容

(ア)補助人の職務内容と身上配慮義務
a. 補助人の職務内容は,以下の(a)及び(b)です。
(a)身上監護
(b)財産管理

b. 「補助人は,補佐の事務を行うに当たっては,被補助人の意思を尊重し,かつ,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければな」りません(民法第876条の10第1項,第876条の5第1項)。
これを,身上配慮義務といいます。

(イ)身上監護
a. 補助人の身上監護とは,被補助人の生活の維持や医療,介護など,身上の保護に関する法律行為を行うことをいいます。
b. 補助人の身上監護には,補助人が同意権や取消権を行使する場合(代理権が付与されている場合には代理権を行使する場合を含む。)における,介護サービス契約,施設入所契約,医療や教育に関する契約の選定やその締結,解除が含まれます。
また,これらの契約に基づく費用の支払やサービスの履行状況の確認など,これらの契約に伴う事実行為なども含まれます。
もっとも,実際に被補助人を介護することまでは含まれません。

(ウ)財産管理
補助人の財産管理には,補助人が同意権や取消権を行使する場合(代理権が付与されている場合には代理権を行使する場合を含む。)における,被補助人の財産状況を把握し,これらの財産を保存したり,一定の範囲で被補助人のために利用することが含まれます。

(6)法定後見(成年後見)制度利用における留意点

ア 留意点の概要

法定後見(成年後見)制度利用にあたって留意すべき点に,以下の(ア)~(エ)があります。
(ア)ご本人名義財産からの支出が原則としてご本人のための支出に限られること
(イ)後見人の選任は家庭裁判所の判断によることなど
(ウ)後見などの監督人選任や後見制度支援信託の利用
(エ)任意に申立の取下げができないこと

イ 前記ア(ア)の「ご本人名義財産からの支出が原則としてご本人のための支出に限られること」

(ア)法定後見(成年後見)制度は,ご本人の判断能力を補うための,ご本人のための制度です。
そのため,法定後見(成年後見)制度が利用されるまでの間,ご本人の財産からご本人以外の親族などのために支出がなされていたとしても,成年後見開始など法定後見(成年後見)制度の利用が開始されると,ご本人の財産から支出できるのは,原則としてご本人のための支出に限られます。

(イ)ご本人以外の親族のためにご本人の財産から支出することが許されるのは,以下のa.~c.のような場合で,かつ推定相続人(ご本人が死亡した後にその相続人となる者)が反対していないようなときなどの例外的な場合のみとなっています。
a. その親族がご本人の財産からの支出がなければ生計が成り立たない場合
b. ご本人名義不動産売却のために同不動産から退去してもらうなどの対価として支払う場合など,ご本人以外の親族のためにご本人の財産から支出することに合理性がある場合
c. ご本人の資産・収入からしてその支出が儀礼的範囲内といえる場合

ウ 前記ア(イ)の「後見人の選任は家庭裁判所の判断によることなど」

(ア)法定後見(成年後見)制度を申し立てるにあたっては,申立人は,申立人自身やその他の親族などを後見人などの候補者として挙げることができます。

(イ)しかし,後見人として誰を選任するかは,家庭裁判所の広範な裁量に委ねられており,以下のa.~d.のような場合には,申立人が挙げる後見人などの候補者ではなく,弁護士などの専門職後見人が後見人などに選任されることが多くなっています。
a. 申立書で挙げられている後見人などの候補者が後見人などに就任することに他の親族が反対している場合
b. 申立書で挙げられている後見人などの候補者が,低収入であったり,これまで適切にご本人の財産を管理してこなかったりしたために,適切にご本人の財産を管理できるか疑問を持たれてしまう場合
c. 親族間での紛争性が高い場合
d. 遺産分割などの法的処理の必要がある場合

(ウ)また,前記(イ)c.のようなケースでは,申立人が候補者として弁護士などの専門職を挙げている場合であっても,その候補者が中立・公平であるかについて他の親族が疑いの目を差し挟む可能性があるので,家庭裁判所が党外候補者でない弁護士などを選任することが通常です。

(エ)後見開始などの審判がなされたことまたはその申立てを却下する審判がなされたことに対しては,申立人などは不服を申し立てることができますが,成年後見人などに選任された者が申立人が挙げた候補者ではなかったことなどについては不服を申し立てることもできません(家事事件手続法第123条,第132条,第141条)。

エ 前記ア(ウ)の「後見などの監督人選任や後見制度支援信託の利用」

(ア)前記ウ(イ)a.~d.に記載したような事情がなく,申立人自身やその他の親族など,いわゆる親族後見人が選任される場合であっても,ご本人が多額の流動資産(概ね1000万円以上)を有している場合には,後見などの監督人が選任されるか後見制度支援信託 利用のいずれかとなる可能性が高くなっています。

(イ)後見監督人,保佐監督人または補助監督人が選任されると,後見人,保佐人または補助人は,それら監督人に対し定期報告が求められます。
また,後見制度支援信託が利用されると,当初は親族後見人と専門職後見人とが並び立つ形となって引継等の業務が不可欠になる上,当面の生活に必要な金員以外は信託銀行に保管することとなり,後見人などであっても自由に出し入れすることができなくなります。

(ウ)なお,弁護士などの専門職が後見などの監督人に選任された場合であっても,後見などの監督人が訴訟提起などの専門的な業務を後見人から受任することはできません(後見などの監督人からみて後見人が顧客の立場になって十分な指導監督ができなくなるため。)。

オ 前記ア(エ)の「任意に申立の取下げができないこと」

法定後見(成年後見)制度を申し立てると,家庭裁判所の許可がない限り,その申立てを取り下げることができません(家事事件手続法第121条,第133条,第142条)。
そして,この申立の取下げについての家庭裁判所の許可は,まず認められません。

そのため法定後見(成年後見)制度を一旦申し立ててしまうと,申立人が候補者として挙げた人物が成年後見人に選任されそうにないといった理由で同申立てを取り下げようとしても,取り下げることができません。


法定後見(成年後見)

成年後見という用語は,保佐や補助と異なる狭義の「成年後見」のみを指すこともあれば,成年後見・保佐・補助の3つを意味する「法定後見」を指すこともあれば,法定後見と任意後見を併せた広義の「成年後見」を指すこともあります。
本解説では,狭義の「成年後見」を指す用語として「成年後見」という用語を,成年後見・保佐・補助の3つを意味する用語として「法定後見(成年後見)」という用語を用い,広義の「成年後見」という用語を用いないものとしています。

後見制度支援信託

「後見制度支援信託」とは,後見制度を利用するご本人の財産のうち,入所施設の利用料や日々の生活に必要な金銭を預貯金として親族後見人の管理下に残した上で,それ以外の金銭を信託銀行などに信託し,特別の支出が必要なときは家庭裁判所の指示書により信託の解約などができるようにするという仕組みをいいます。

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