川崎パシフィック法律事務所

6 任意後見契約,財産管理契約,死後の事務委任契約

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6 任意後見契約,財産管理契約,死後の事務委任契約

6 任意後見契約,財産管理契約,死後の事務委任契約

(1)任意後見契約

ア 任意後見契約とは

(ア)任意後見契約とは,委任者が,受任者に対し,精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な状況における自己の生活,療養看護及び財産の管理に関する事務の全部または一部を委託し,その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって,任意後見監督人が選任された時からその効力を生ずる旨の定めのあるものをいいます(任意後見契約に関する法律第2条第1号)。
平たくいえば,ご本人の判断能力が低下した場合に備えた,財産管理・身上監護に関する特殊な契約をいいます。

(イ)任意後見契約は,法務省令で定める様式の公正証書によって締結しなければなりません(同法第3条)。

(ウ)ご本人が有効に任意後見契約を締結するには,契約締結時に,契約を締結できるだけの意思能力を有している必要があります。

(エ)任意後見契約が締結されると,公証人の嘱託により,任意後見人及び代理権の範囲が登記されます(同法第4条柱書)。

イ 任意後見契約の効力

(ア)任意後見契約締結されてその登記がなされている場合において,精神上の障害によりご本人の事理を弁識する能力が不十分な状況にあるときは,家庭裁判所は,ご本人,配偶者,4親等内の親族または任意後見受任者の請求により,原則として,任意後見監督人を選任します(同法第4条第1項本文)。

(イ)ご本人以外の者が申立人となって任意後見監督人選任を申し立てる場合には,ご本人がその意思を表示することができないときを除き,あらかじめご本人の同意がなければなりません(同条第3項)。

(ウ)任意後見監督人選任により,任意後見契約は効力を生じます。

(エ)任意後見監督人が選任されると,家庭裁判所の嘱託により,任意後見監督人が登記されます。

ウ 任意後見人の職務内容

(ア)任意後見人の職務内容と身上配慮義務
a. 任意後見人の職務内容は,以下の(a)及び(b)です。
(a)身上監護
(b)財産管理

b. 任意後見人は,任意後見人の事務を行うにあたっては,ご本人の意思を尊重し,かつ,その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければなりません(同法第6条)。

(イ)身上監護
a. 身上監護とは,ご本人の生活の維持や医療,介護など,身上の保護に関する法律行為を行うことをいいます。

b. 任意後見人の身上監護には,任意後見契約により委託された範囲で,介護サービス契約,施設入所契約,医療や教育に関する契約の選定やその締結,解除が含まれます。
また,任意後見契約により委託された範囲で,これらの契約に基づく費用の支払やサービスの履行状況の確認など,これらの契約に伴う事実行為なども含まれます。
もっとも,実際にご本人を介護することまでは含まれません。

(ウ)財産管理
任意後見人の財産管理には,任意後見契約により委託された範囲で,ご本人の財産状況の把握,財産の保存,一定の範囲で被後見人のために利用することが含まれます。

エ 任意後見監督人の職務内容

任意後見監督人の職務内容は,以下の(ア)~(エ)です。
(ア)任意後見人の事務を監督すること(同法第7条第1項第1号)
(イ)任意後見人の事務に関し,家庭裁判所に定期的に報告をすること(同項第2号)
(ウ)急迫の事情がある場合に,任意後見人の代理権の範囲内において,必要な処分をすること(同項第3号)
(エ)任意後見人またはその代表する者とご本人との利益が相反する行為についてご本人を代表すること(同項第4号)

オ 任意後見契約の類型

(ア)3類型
任意後見契約には,以下のa.~c.の3類型があります。
a. 将来型
b. 移行型
c. 即効型

(イ)前記(ア)a.の「将来型」
前記(ア)a.の「将来型」とは,ご本人の判断能力が低下する前に,任意後見契約のみを締結し,ご本人の判断能力低下後に任意後見人のサポートを受けることのみを契約内容とする形態をいいます。
「将来型」は,任意後見契約に関する法律が本来予定している形態でもあります。

(ウ)前記(ア)b.の「移行型」
前記(ア)b.の「移行型」とは,ご本人の判断能力が低下する前に,通常の委任契約(財産管理契約/後記(2)参照)と任意後見契約を同時に締結し,当初は通常の委任契約(財産管理契約)に基づく財産管理などを行い,ご本人の判断能力低下後は任意後見監督人選任申立てを行って任意後見監督人選任後に任意後見契約に基づく任意後見事務を行う形態をいいます。
この移行型に死後の事務委任についても取り決める場合の文例としては,島原公証役場HP「任意後見」中の「委任契約・任意後見契約及び死後の事務委任公正証書の例」をご覧ください。

(エ)前記(ア)c.の「即効型」
前記(ア)c.の「即効型」とは,ご本人の判断能力の低下がみられるものの契約締結能力はまだ残存している場合に,その時点で任意後見契約を締結し,ただちに任意後見監督人選任申立てを行う形態をいいます。

カ 法定後見(成年後見)と任意後見の共通点・相違点

(ア)共通点
法定後見(成年後見)と任意後見の共通点は,以下のa.~f.のとおりです。
a. 判断能力が不十分になったご本人のための制度であること
b. 後見人などが身上監護及び財産管理を行うこと
c. 法定後見中の補助開始申立てと任意後見監督人選任申立ては原則としてご本人の同意が必要であること
d. 家庭裁判所の審判により後見開始などの効力が発生すること
e. ご本人の財産の活用方法が限定的であること
f. ご本人が死亡すると後見などの業務が終了すること

(イ)相違点
法定後見(成年後見)と任意後見の相違点は,以下のa.~c.のとおりです。
a. 法定後見人は裁判所が選任するため申立人の希望する候補者が必ずしも法定後見人に選任されないのに対し,任意後見人は申立人の希望どおり選任されるのが通常であること
b. 法定後見中の後見開始及び保佐開始の申立てにおいてはご本人の同意が必要であるのに対し,任意後見監督人選任申立ては原則としてご本人の同意が必要であること
c. 財産管理の対象となるのは,法定後見ではご本人の財産のすべてであるのに対し,任意後見では財産を任意に選択できること

(2)財産管理契約

ア 財産管理契約とは

(ア)財産管理委任契約とは,ご本人の財産の管理やその他の生活上の事務の全部または一部について,代理権を与える人を選んで具体的な管理内容を決めて委任するもので,民法上の委任契約の一種です。

(イ)財産管理契約は,特定の方式による必要はありませんが,契約内容に疑義が生じないように書面により契約を締結しておくべきです。

(ウ)ご本人が有効に任意後見契約を締結するには,契約締結時に,契約を締結できるだけの意思能力を有している必要があります。

イ 財産管理契約の効力

(ア)財産管理契約の効力発生時期は,その契約の定め方次第となります。
一般的には,契約締結後ただちに効力が発生する形で契約を締結することが多いと思われます。

(イ)財産管理契約の効力が受任者の判断能力が低下してしまった時期においても持続するというものに設定するとなると,契約の有効性に疑義が生じるので,判断能力が低下した場合には任意後見監督人選任を申し立てて任意後見契約に移行する形が望ましいところです。

ウ 財産管理契約の受任者の職務内容

財産管理契約の受任者の職務内容は,その締結した契約内容次第となります。
財産管理契約の受任者は,善良な管理者の注意をもって,委任事務を処理する義務を負います(民法第644条)。

エ 財産管理契約における留意点

ご本人と受任者との間で財産管理契約を締結し,受任者が預貯金の管理・解約などの権限を有していたとしても,金融機関によって取扱いがまちまちで,財産管理契約に基づいて受任者による預貯金の管理・解約などに金融機関に応じてもらえるか不確かであることに注意が必要です。

オ 財産管理契約の活用法

現状では,財産管理契約単体の契約を締結してもあまり意味がなく,前記イ(イ)記載のとおり,財産管理契約と任意後見契約を併用するのが最も有効な活用法と思われます。

(3)死後の事務委任契約

ア 死後の事務委任契約とは

(ア)死後の事務委任契約とは,ご本人が受任者に対し,葬儀や埋葬といったご本人死亡後の諸手続について委任する契約です。
本来,委任契約は,委任者の死亡によって終了するものですが(民法第653条),委任者の死亡後の事務を委任するという点で,特殊なものです。

(イ)死後の事務委任契約は,特定の方式による必要はありませんが,契約内容に疑義が生じないように書面により契約を締結しておくべきです。

(ウ)ご本人が有効に死後の事務委任契約を締結するには,契約締結時に,契約を締結できるだけの意思能力を有している必要があります。

イ 死後の事務委任契約の内容

ご本人の死後に必要となる事務には,以下の(ア)~(ケ)などがあります。
これらの事務を行ってもらえそうな親族がいる場合や成年後見人や任意後見人が就任している場合には特段の心配はいりません(成年後見人や任意後見人には本来これらの事務を行う権限はありませんが,現実には成年後見人などが担っております。)。

しかし,ご本人に親しい親族がおらず,成年後見人や任意後見人なども選任されていない場合には,これらの事務について取り決めておかないと,ご本人死亡後に各種事務が停滞し,関係各所に迷惑をかけてしまうことになります。
(ア)死亡届・年金受給に関する役所への各種書類提出などの事務
(イ)親族や関係者に対する,ご本人が死亡した旨の連絡事務
(ウ)葬儀・納骨・永代供養などに関する事務
(エ)生活用品・家財道具等の遺品(動産類一式)の整理・処分に関する事務
(オ)賃借物件の退去(残置物除去などを含む。),敷金などの精算事務
(カ)施設からの退去事務,入居一時金などの清算事務
(キ)生前に発生した未払債務(入院・入所費用の精算)の弁済
(ク)携帯電話や電気・ガス・水道などの解約・清算などの事務
(ケ)相続人・利害関係人等への遺品・相続財産の引継事務

ウ 死後の事務委任契約の活用

ご本人が任意後見契約を締結している場合であっても,本来的には任意後見人はご本人の死亡により業務が終了する以上,任意後見人にご本人の死後の事務についても委任する予定であるときは,任意後見契約と併せて死後の事務委任契約も締結しておくべきです。

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