川崎パシフィック法律事務所

7 遺言

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7 遺言

7 遺言

(1) 遺言とは

遺言とは,遺言者の死亡後の法律関係を定めるための最終意思の表示をいいます。遺言とは,遺言者の死亡後の法律関係を定めるための最終意思の表示をいいます。

(2) 要式行為性

遺言は民法に定める方式に従わなければすることができない要式行為(一定の方式によることを必要とする行為)であり,方式に違反する遺言は無効となります(民法第960条)。

(3) 遺言事項の限定

遺言の明確性を確保するとともに,後日の紛争を予防するため,遺言に法的効力をもたせることができる事項は,以下のア~エに限られています。
 これらの事項に該当しないものについては,遺言に記載しても何らの効力を有しません(例えば,遺言で寄与分について定めても意味がありません。)。

ア 身分関係に関する事項

(ア) 子の認知(民法第781条第2項) (イ) 未成年後見人・未成年後見監督人の指定(民法第839条,第848条)(ア) 子の認知(民法第781条第2項)
(イ) 未成年後見人・未成年後見監督人の指定(民法第839条,第848条)

イ  相続の法定原則の修正や遺産の処分に関する事項

(ア) 推定相続人の廃除(民法第893条),推定相続人の廃除の取消し(民法第894条第2項)
(イ) 相続分の指定及び指定の委託(民法第902条)
(ウ) 遺産分割方法の指定及び指定の委託,遺産分割の禁止(民法第908条)
※ 「相続させる」旨の遺言も遺産分割方法の指定に含まれます。
(エ) 遺贈(民法第964条)
(オ) 特別受益の持戻し免除(民法第903条第3項)
(カ) 共同相続人間の担保原則の定め(民法第914条)
(キ) 遺贈や贈与に対する遺留分侵害額の負担の順序の指定(民法第1047条第1項第2号)
※ 令和元年(2019年)7月1日より以前に相続が開始した場合においては遺贈や贈与に対する遺留分減殺の順序の指定(改正前の民法第1034条)

ウ 遺言の執行に関する事項

遺言執行者の指定及び指定の委託等(民法第1006条第1項,第1016~1018条)

エ その他

(ア) 祭祀主宰者の指定(民法第897条第1項)
(イ) 一般財団法人の設立(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第152条2項)
(ウ) 信託の設定(信託法第3条第2号)
(エ) 生命保険における保険金受取人の変更(保険法第44条)

(4) 遺言能力,意思能力

ア 遺言能力

遺言をするには,遺言の内容を理解し,遺言の結果を弁識し得るに足りる意思能力があれば足ります。  その基準は満15歳以上です(民法第961条)。遺言をするには,遺言の内容を理解し,遺言の結果を弁識し得るに足りる意思能力があれば足ります。
その基準は満15歳以上です(民法第961条)。

イ 意思能力

意思能力のない者の意思表示が無効である以上,意思能力のない者の遺言は無効となります。  この意思能力があるかないかというのは,成年後見制度にいう「事理弁識能力を欠く常況」にあるかどうかとは別のものです。  そのため,成年被後見人であっても,医師2人以上の立会いの下で自利を弁識する能力を一時回復したことが確認された場合には,遺言をすることが可能です(民法第973条)。意思能力のない者の意思表示が無効である以上,意思能力のない者の遺言は無効となります。

この意思能力があるかないかというのは,成年後見制度にいう「事理弁識能力を欠く常況」にあるかどうかとは別のものです。
そのため,成年被後見人であっても,医師2人以上の立会いの下で自利を弁識する能力を一時回復したことが確認された場合には,遺言をすることが可能です(民法第973条)。

(5) 遺言の撤回

ア 遺言撤回の自由

遺言者は,その存命中は,いつでも,遺言を撤回することができます(民法第1022条)。
もっとも,遺言の撤回についても,「遺言の方式に従って」なされる必要があります(同条)。

イ 撤回擬制

以下の(ア)~(ウ)の場合,遺言が撤回されたものと評価されます(撤回擬制)。
(ア) 前後の遺言は内容的に抵触する場合(民法第1023条第1項)
(イ) 遺言の内容とその生前処分とが抵触する場合(民法第1023条第2項)
(ウ) 遺言者が故意に遺言書または遺贈目的物を破棄した場合(民法第1024条)
遺言者が故意に遺言者の文面全体に斜線を引く行為も「故意に遺言書を破棄したとき」に該当し,遺言者が遺言を撤回したものとみなされます(最二小判平27.11.20民集69巻7号2011頁)。

(6) 遺言の方式

ア 普通方式と特別方式

遺言の方式には,以下の2つの方式があります(民法第967条,第976~984条)。  このうち,普通方式の自筆証書遺言と公正証書遺言が作成されることが大半で,それ以外はほとんど作成されていないものと思われます。 (ア) 普通方式 (イ) 特別方式遺言の方式には,以下の2つの方式があります(民法第967条,第976~984条)。
このうち,普通方式の自筆証書遺言と公正証書遺言が作成されることが大半で,それ以外はほとんど作成されていないものと思われます。
(ア) 普通方式
(イ) 特別方式

イ 普通方式の遺言

普通方式の遺言には,以下の3種類があります。
(ア) 自筆証書遺言(民法第968条)
内容については後記エに記載します。

(イ) 公正証書遺言(民法第969条)
内容については後記オに記載します。

(ウ) 秘密証書遺言(民法第970条)
遺言者が遺言内容を秘密にした上で遺言書を作成し,公証人や証人の前に封印した遺言書を提出して遺言証書の存在を明らかにすることを目的として行われる遺言

ウ 特別方式の遺言

(ア) 特別方式の遺言には,以下の4種類があります。
a. 死亡危急時遺言(民法第976条)
病気その他の理由で死亡の危急に迫った者の遺言
b. 伝染病隔離者遺言(民法第977条)
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所にある者の遺言
c. 在船者遺言(民法第978条)
船舶に在船している者の遺言
d. 船舶遭難者遺言(民法第979条)
船舶の遭難により死亡の危急に迫った者の遺言

(イ) 特別方式の遺言は,遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から6か月間生存するときに,当然に失効します(民法第983条)。

エ 自筆証書遺言(民法第968条)

(ア) 自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は,原則として,遺言書の全文,日付及び氏名を自分で書き,押印して作成する方式の遺言です。
誰にも知られずに簡単に遺言書を作成できる上,保管にかかる費用がかからない(ただし,自筆証書遺言保管制度を利用する場合には3900円がかかります。)というメリットがあります。
反面,方式不備で無効とされる危険性が高く,紛失したり偽造・変造されたりする危険性も存します(ただし,自筆証書遺言書保管制度を利用すればこれらの危険性を回避することができます。)。

(イ) 自筆証書遺言の方式
自筆証書遺言においては,以下の方式による必要があります。
a.遺言書全文の自書
b.日付
c.氏名
d.押印

(ウ) 前記(イ)a.の「遺言書全文の自書」
遺言者は,遺言書の全文を自分で書かなければなりません(ただし,後記自筆証書遺言の方式の緩和が適用される部分を除きます。)。
他人の添え手による補助を受けてされた自筆証書遺言は,実質的に自筆と言えるかどうかで有効性が判断されます(最一小判昭62.10.8民集41巻7号1471頁)。

(エ) 前記(イ)b.の「日付」
年月日まで客観的に特定できるように記載しなければなりません。
「●月吉日」という記載は無効になります(最一小判昭54.5.31民集33巻4号445頁)。

(オ) 前記(イ)c.の「氏名」
氏名は,戸籍上の氏名でなくても,通称・雅号・ペンネームでもかまいません。

(カ) 前記(イ)d.の「押印」
a. 印章には制限がなく,認め印でもかまいません。
b. 押印は指印でもかまいません(最一小判平1.2.16民集43巻2号45頁)。
c. もっとも,花押(署名の代わりに書いた記号・符号)では押印したことにはなりません(最二小判平28.6.3民集70巻5号1263頁)。
d. 押印の場所は,遺言の本文が書かれた書面上にされていれば足り,署名の下にされていなくともかまいません。
遺言書本文の入れられた封筒の封じ目にあれた押印でもかまいません(最二小判平6.6.24裁判集民172号733頁)。

(キ) 自筆証書遺言の方式の緩和
a. 相続法改正により,自筆証書によって遺言をする場合でも,例外的に,自筆証書に相続財産の全部またはは一部の目録(以下「財産目録」といいます。)を添付するときは,その目録については自書しなくてもよいことになりました。

この場合,遺言者は,自書によらない財産目録を添付する場合には,その「毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては,その両面)」に署名押印をしなければならないものと定めています。
すなわち,自書によらない記載が用紙の片面のみにある場合には,その面または裏面の1か所に署名押印をすればよいのですが,自書によらない記載が両面にある場合には,両面にそれぞれ署名押印をしなければなりません。

b. 相続法改正のうち,自筆証書遺言の方式の緩和に関する部分は,平成31年(2019年)1月13日に施行されます。
同日以降に自筆証書遺言をする場合には,新しい方式に従って遺言書を作成することができるようになります。
同日よりも前に,新しい方式に従って自筆証書遺言を作成しても,その遺言は無効となります( 法務省HP「自筆証書遺言に関するルールが変わります。」)。

(ク) 自筆証書遺言書保管制度
a. 令和2年(2020年)7月10日より法務局における遺言書の保管等に関する法律が施行されることに伴い,自筆証書遺言書保管制度が創設されることになりました。

b. 遺言者は,遺言者の住所地もしくは本籍地または遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所(遺言者の作成した他の遺言書が現に遺言書保管所に保管されている場合にあっては、当該他の遺言書が保管されている遺言書保管所)の遺言書保管官に対し,遺言書の保管の申請をすることができます(同法第4条第1項・第3項)。

c. 法務局に対し保管の申請がなされた遺言書については,遺言書保管官が,遺言書保管所の施設内において原本を保管するとともに,その画像情報等の遺言書に係る情報を管理します(同法第2条第1項,第3条,第4条,第7条)。

d. 遺言書保管所に保管されている遺言書については検認手続が不要です(同法第11条)。

e. 遺言書保管料は3900円です。

f. この制度の創設により,方式不備で無効とされる危険性が高く,紛失したり偽造・変造されたりする危険性も存するという自筆証書遺言のデメリットはなくなります。
もっとも,自筆証書遺言書保管制度においては遺言書に形式的な不備があるかどうかを確認するだけですので,遺言者の意図どおりの遺言書の記載内容になっていない危険性を排除することはできません。

オ 公正証書遺言(民法第969条)

(ア) 公正証書遺言とは
公正証書遺言とは,遺言者が遺言の内容を公証人に伝え,公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言です。
公正証書遺言によるメリットには,以下のa.~e.があります。
a. 内容的に適正な遺言ができること
b. 遺言意思が確認できるから,無効などの主張がされる可能性が少ないこと
c. 公証人が原本を保管するので,破棄・隠匿されるおそれがないこと
d. 相続人による検索が容易であること
e. 家庭裁判所による検認手続が不要であること(民法第1004条第2項)

(イ) 公正証書遺言作成の方式
公正証書遺言による遺言は,原則として以下の方式によって行われます(民法第969条各号)。
a. 証人2人以上の立会いがあること
b. 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること
c. 公証人が,遺言者の口述を筆記し,これを遺言者及び証人に読み聞かせ,または閲覧させること
d.  遺言者及び証人が,筆記の正確なことを承認した後,各自これに署名し,印を押すこと(ただし,遺言者が署名することができない場合は,公証人がその事由を付記して,署名に代えることができます。)
e. 公証人が,その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して,これに署名し,印を押すこと

(ウ) 公正証書遺言と自筆証書遺言書保管制度との比較
a. 公正証書遺言,自筆証書遺言書保管制度ともに,以下の共通点があります。
(a) 遺言意思が確認できるから,無効などの主張がされる可能性が少ないこと
(b) 形式的に不備の遺言がなされるおそれがないこと
(c) 公証人や遺言書保管人が原本を保管するので,破棄・隠匿されるおそれがないこと
(d) 相続人による検索が容易であること
(e) 家庭裁判所による検認手続が不要であること

b. 自筆証書遺言書保管制度は,以下の点では公正証書遺言より優れています。
(a) 証人が不要であること
(b) 手数料が公正証書遺言より低額であること

c. 公正証書遺言は,以下の点で自筆証書遺言書保管制度より優れています。
(a) 内容的に適正な遺言ができること
(b) 遺言者自身が法務局まで出向かなくとも作成可能なこと

d. 遺言をめぐる紛争を多数扱ってきた弁護士の立場からすれば,前記c.(a)「内容的に適正な遺言ができること」というメリットは無視できず,公正証書遺言作成をお勧めします。

(7) 遺言の解釈

遺言の解釈においては,遺言の文言を形式的に判断するだけでなく,遺言者の真意を探求し,その真意に沿った内容で遺言をできるだけ有効にするように解釈すべきものとされています(最三小判平5.1.19民集47巻1号1頁,最二小判昭58.3.18裁判集民138号277頁)。
もっとも,遺言,とりわけ自筆証書遺言によっては,この基準によるといえども,どのように解釈すべきか悩ましい事態が生じることが多数あります。

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