川崎パシフィック法律事務所

8 民事信託(家族信託・福祉(型)信託)

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8 民事信託(家族信託・福祉(型)信託)

8 民事信託(家族信託・福祉(型)信託)

(1)民事信託(家族信託・福祉(型)信託)とは

ア 信託とは

(ア)信託とは,委託者の財産を,契約することなどによって受託者に託し,委託者自身または委託者以外の人のために管理・運用してもらうことをいいます。

(イ)「信託」すると,委託者の財産の所有権が受託者に移転し,受託者が信託された財産の所有者となります。

イ 民事信託という用語について

(ア)民事信託とは,前記アの「信託」のうち,受託者が限定された特定の者を相手として,営利を目的とせず,継続反復しないで引き受ける信託一般をいいます。
民事信託は,ある目的のために家族に財産を信託する仕組みであることも多いため,家族信託と呼ばれることもあります。
民事信託のうち,高齢者や障害者の生活支援のための信託については,特に福祉(型)信託と呼ばれることもあります。

(イ)民事信託という用語は,一般に,信託銀行の行う「商事信託」と対比する概念として用いられています。

ウ 民事信託の方式

民事信託には,以下の(ア)及び(イ)の方式があります。
(ア)信託契約を締結する方法
(イ)遺言による信託による方法

エ 前記ウ(ア)の「信託契約を締結する方法」

信託契約とは,委託者が受託者に財産権の管理処分の権限を与え,定められた目的(受益者へ利益をもたらすこと)に従って,財産の管理・処分などをさせる契約をいいます。
この場合,委託者には,信託契約を締結する能力を備えていることが求められます。

オ 前記ウ(イ)の「遺言による信託による方法」

遺言による信託とは,遺言書に,相続が開始した段階で財産を信託し,受託者に目的に従って,財産の管理・処分などをさせる方法をいいます。
この場合,委託者には,遺言をする能力を備えていることが求められます。

(2)民事信託(家族信託・福祉(型)信託)の特徴(財産管理と財産承継)

ア 民事信託(家族信託・福祉(型)信託)は,以下の(ア)及び(イ)のための制度です。
(ア) 財産管理
(イ) 財産承継

イ 財産管理の面では,法定後見(成年後見)及び任意後見の制度並びに財産管理契約が存在するため,これらの制度と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との共通点・相違点を踏まえておく必要があります。

ウ 財産承継の面では,遺言が存在するため,遺言と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との共通点・相違点を踏まえておく必要があります。

(3)財産管理の面における,法定後見(成年後見)及び任意後見と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との共通点・相違点

ア 法定後見(成年後見)及び任意後見と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との共通点

法定後見(成年後見)及び任意後見と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との共通点は,以下の(ア)~(ウ)です。
(ア)制度の目的として財産管理が含まれること

(イ)対象となる財産を任意に選択できること(ただし,この共通点は任意後見と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との共通点であり,法定後見(成年後見)においては対象となる財産を任意に選択することはできません。)

(ウ)委託者が財産を託する人物を選択できること(ただし,この共通点は任意後見における任意後見人と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との共通点であり,法定後見(成年後見)における後見人などや任意後見における任意後見監督人については裁判所が選任します。)

イ 法定後見(成年後見)及び任意後見と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との相違点

法定後見(成年後見)及び任意後見と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との相違点は,以下の(ア)~(エ)です。
(ア)法定後見(成年後見)及び任意後見における制度の目的には,財産管理のほか,身上監護が含まれるのに対し,民事信託(家族信託・福祉(型)信託)における制度の目的には,財産管理のほか,財産承継が含まれること

(イ)対象となる財産について,法定後見(成年後見)においてはすべての財産が対象となるのに対し,民事信託(家族信託・福祉(型)信託)においては対象となる財産を任意に選択することができること

(ウ)法定後見(成年後見)における後見人などや任意後見における任意後見監督人については家庭裁判所が選任するのに対し,民事信託(家族信託・福祉(型)信託)における受託者は委託者が選択すること

(エ)法定後見(成年後見)及び任意後見においては家庭裁判所が関与するのに対し,民事信託(家族信託・福祉(型)信託)においては家庭裁判所の関与がほとんどないこと

(4)財産管理の面における,財産管理契約と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との共通点・相違点

ア 財産管理契約と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との共通点

財産管理契約と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との共通点は,以下の(ア)~(エ)です。
(ア)制度の目的として財産管理が含まれること
(イ)対象となる財産を任意に選択できること
(ウ)委託者が財産を託する人物を選択できること
(エ)家庭裁判所の関与がほとんどないこと

イ 財産管理契約と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との相違点

財産管理契約と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との共通点は,以下の(ア)~(ウ)です。
(ア)財産管理契約における目的は,財産管理のみであるのに対し,民事信託(家族信託・福祉(型)信託)における制度の目的には,財産管理のほか,財産承継が含まれること

(イ)対象となる財産について,財産管理契約では所有権が移転しないのに対し,民事信託(家族信託・福祉(型)信託)においては所有権が移転すること

(ウ)財産管理契約においては,契約の受託者による預貯金の払戻しに際して金融機関が払戻しに応じないといった事態が生じかねないのに対し,民事信託(家族信託・福祉(型)信託)においてはそのような事態が生じないこと

(5)財産承継の面における,遺言と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との共通点・相違点

ア 遺言と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との共通点

法定後見(成年後見)及び任意後見と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との共通点は,以下の(ア)及び(イ)です。
(ア)ご本人から託された人物が財産を承継すること

(イ)ご本人の死亡時に効力が発生すること(ただし,遺言と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)中の遺言による信託による方法の共通点であり,信託契約による方法の場合には委託者と受託者が効力発生時を合意することができるので,異なりえます。)

イ 遺言と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との相違点

遺言と民事信託(家族信託・福祉(型)信託)との相違点は,以下の(ア)~(エ)です。

(ア)遺言の場合にはご本人から託された人物が一括して承継するのに対し,信託行為(信託契約,遺言による信託)の定めにより,財産を一括して承継することも,分割して承継することもできること

(イ)遺言の場合にはご本人の死亡時に効力が発生するのに対し,民事信託(家族信託・福祉(型)信託)中の信託契約による方法の場合には委託者と受託者が効力発生時を合意することができるので,その合意した時点となること

(ウ)遺言の場合には財産を承継する時点がご本人の死亡した時点となるのに対し,民事信託(家族信託・福祉(型)信託)の場合には,その定め方次第により異なること

(エ)遺言による場合には,後継ぎ遺贈の場合に様々な解釈の余地を残してしまい必ずしも遺言者の真意に沿わない解釈がなされるおそれがあるのに対し(最二小判紹58.3.18裁判集民138号277頁),民事信託(家族信託・福祉(型)信託)による場合には委託者の真意に沿った跡継ぎ遺贈型受益者連続信託の設定が可能であること

(6)民事信託(家族信託・福祉(型)信託)における留意点

ア 弁護士など専門家の活用の必要性

(ア)民事信託(家族信託・福祉(型)信託)においては,家庭裁判所の関与がほとんどありません(前記(3)イ(エ)参照)。

(イ)家庭裁判所が関与する法定後見(成年後見)においてすら,親族後見人による横領などの不正事案が多発していたことからすれば,家庭裁判所の関与のない民事信託(家族信託・福祉(型)信託)においては,受託者による横領などの不正事案の危険性はより高いものといわざるを得ません。

(ウ)そのため,民事信託(家族信託・福祉(型)信託)においては,受託者を弁護士などの専門家に設定するか,信託監督人を定めた上でその信託監督人を弁護士などの専門家に設定すべきと思われます。

イ 任意後見契約との併用の必要性

(ア)民事信託(家族信託・福祉(型)信託)は,財産管理及び財産承継のための制度であり,身上監護については含まれません(前記(2)ア参照)。

(イ)そのため,身上監護の必要が生じるときには,民事信託(家族信託・福祉(型)信託)によるだけでなく,任意後見契約を併用する必要があります。

(7)民事信託(家族信託・福祉(型)信託)の活用例・信託契約書文例

ア 「財産管理」中の高齢者の財産保護のケース

(ア)事例
預貯金,不動産など多額の財産を有しているXが,信頼できる子どもAに財産の管理を委ねる一方で,それまでの生活をできるだけ維持することを希望する場合

(イ)信託契約書文例
(信託目的)
第●条 本信託の信託目的は,以下のとおりである。
委託者の主な財産を受託者が管理または処分することにより
(1) 委託者の財産管理の負担を軽減すること
(2) 委託者が詐欺等の被害に遭うことを予防し,委託者が安全かつ安心な生活を送れるようにすること
(3) 委託者が,従前と変わらぬ生活を続けることにより,快適な生活を送れるようにすること
[中略]
(受託者)
第●条 本信託の当初受託者は,以下のとおりである。
受託者 住所●● 
氏名●●
(受託者の信託事務)
第●条 受託者は,以下の信託事務を行う。
(1) 信託財産目録記載1,2及び3の信託不動産を管理,処分すること
(2) 信託財産目録記載2の信託不動産を第三者に賃貸し,第三者から賃料を受領すること
(3) 前号によって受領した賃料を,第1号の信託不動産を管理するために支出すること
(4) 第1号及び第2号において受領した売却代金及び賃料を管理し,受益者の生活費,医療費及び介護費用等に充てるため支出すること
(5) 信託財産に属する金銭及び預金を管理し,受益者の生活費,医療費及び介護費用等に充てるために支出すること
(6) 信託財産目録記載3の信託不動産の売却代金を管理し,受益者の生活費,医療費及び介護費用等に充てるために支出すること
(7) その他信託目的を達成するために必要な事務を行うこと
[中略]
(受益者)
第●条 本信託の受益者は,委託者Xである。
(受益権)
第●条 受益者は,受益権として以下の内容の権利を有する。
(1) 信託財産目録記載2の信託不動産を第三者に賃貸したことによる賃料から給付を受ける権利
(2) 信託目録記載1及び2の信託不動産が処分された場合には,その対価から給付を受ける権利
(3) 信託財産目録記載3の信託不動産を生活の本拠として使用する権利
(4) 前号の信託不動産が処分された場合には,その対価から給付を受ける権利
(5) 信託財産目録記載4の預金から給付を受ける権利
[以下 略]
 

イ 「財産管理」中の親亡き後の問題のケース

(ア)事例

預貯金,不動産など多額の財産を有しているXが,障害者であるなど今後の生活が心配な子どもYのために財産を適切に管理・運用してもらうことを希望するケース(当初の受託者が信託事務を行えないことに備えて後継受託者も定めているもの)

(イ)信託契約書文例
(信託目的)
第●条 本信託の信託目的は,以下のとおりである。
(1) 委託者の主な財産を受託者が管理または処分することにより,受益者Yが,生涯にわたり,不自由のない生活を送り,かつ,十分な治療,療養を受けられるようにすること
(2) 受益者Yの死亡時に財産が残っている場合には,その財産を有効に利用するため,受益者Yが入所していた施設を運営する社会福祉法人●●に残余財産を寄付すること
[中略]
(委託者の地位の不承継)
第●条 委託者が死亡した場合,委託者の権利は消滅し相続人に承継されない。
(受託者)
第●条 本信託の当初受託者は,以下のとおりである。
受託者 住所●● 
氏名●●
2 信託が終了する前に当初受託者が死亡その他の原因により信託事務を行えなくなった場合には,以下の者を後継受託者に指名する。
後継受託者 住所●● 
氏名●●
(受託者の信託事務)
第●条 受託者は,以下の信託事務を行う。
(1) 信託不動産を管理すること
(2) 信託財産に属する金銭及び預金を管理し,信託不動産の管理費用並びに受益者Yの生活費,医療費及び介護費用等に充てるために支出すること
(3) 受益者Yの療養看護に必要な場合には,信託監督人の同意を得て,信託不動産を第三者に賃貸又は処分すること
(4) 前項において受領した賃料または不動産の売却代金を管理し,受益者Yの生活費,医療費及び介護費用等に充てるため支出すること
(5) その他信託目的を達成するために必要な事務を行うこと
(受益者Yへの金銭の給付方法)
第●条 受託者は、受益者Yの生活,医療,介護等の需要に応じるため,下記各号のとおり,定期または随時に,信託財産から受益者Yに金銭を給付する。
(1) 定期給付
受託者は,受益者Yの生活費として,毎月●万円を指定された受益者Y名義の銀行口座に振り込む。
(2) 随時給付
以下の各事由により受益者Yから金銭交付の要求があり,受託者が適当と判断したときは,受託者は,その都度,必要額を受益者Y名義の銀行口座に振り込む。
ア 治療費,入院費,療養費及び介護費用
イ 旅行費用
[中略]
(受益者)
第●条 本信託の当初受益者は,委託者Xとする。
2 当初次受益者Xが死亡したときは,第二次受益者としてYを指定する。
3 第二次受益者Yが死亡したときは,帰属権利者として社会福祉法人●●を指定する。
(受益権)
第●条 受益権として,受益者Xは以下の(1)の権利を,受益者Yは以下の(1)から(4)までの権利を有する。
(1) 信託不動産を生活の本拠として使用する権利
(2) 信託不動産を第三者に賃貸したことによる賃料から給付を受ける権利
(3) 信託不動産を処分したことによる対価から給付を受ける権利
(4) 信託財産に属する預金及び現金から定期または随時に給付を受ける権利
[中略]
(信託の終了事由)
第●条 本信託は,受益者Yの死亡により終了する。
(帰属権利者への残余財産の給付方法)
第●条 清算受託者は,信託財産を全て換価したうえで,帰属権利者に残余財産を給付する。
[以下 略]

ウ 「財産承継」中の跡継ぎ遺贈型の受益者連続信託のケース

(ア)事例
Xが,自身の生存中はX自身及び後妻Aのため,Xの死後で後妻A存命中は後妻Aのために自宅及び自宅の敷地部分を利用させたいが,後妻A死亡後はXと先妻との間の長男Bに相続させることを希望する場合

(イ)信託契約書文例
(信託目的)
第●条 本信託の信託目的は,以下のとおりである。
(1) 委託者兼当初受益者Xが所有する別紙信託財産目録記載の不動産(以下「信託不動産」という。)を第二次受益者Aが生存中は第二次受益者Aに生活の本拠として使用させ,第二次受益者Aが生涯にわたり安定した生活を送れるようにすること
(2) 第二次受益者が死亡した後には,信託不動産を委託者兼当初受益者の実子Bに取得させ,Bが安定した生活を送れるようにすること
[中略]
(委託者の地位の不承継)
第●条 委託者が死亡した場合,委託者の権利は消滅し相続人に承継されない。
(受託者)
第●条 本信託の受託者は,以下の者とする。
受託者 住所●● 
氏名●●
(受託者の信託事務)
第●条 受託者は,以下の信託事務を行う。
(1) 信託不動産を管理すること
(2) 前号の信託不動産を受益者の生活の本拠として使用させること
(3) 信託金銭を管理・運用すること
(4) 信託不動産を管理するため,信託金銭を支出すること
(5) その他信託目的を達成するために必要な事務を行うこと
(受託者の権限の制限)
第●条 受託者は,以下の行為をすることができない。
(1) 信託不動産を処分すること
(2) 信託不動産に担保権を設定すること
(3) 信託不動産を管理するために債務を負担すること
[中略]
(受益者)
第●条 本信託の当初受益者は,委託者Xとする。
2 当初受益者が死亡したときは,第二次受益者として委託者の配偶者Aを指定する。
3 第二次受益者が死亡したときは,帰属権利者として委託者の長男Bを指定する。
(受益権)
第●条 受益者は,受益権として,信託不動産を生活の本拠として使用する権利を有する。
[中略]
(信託の終了事由)
第●条 本信託は,第二次受益者の死亡により終了する。
[以下 略]


後継ぎ遺贈

「後継ぎ遺贈」とは,「不動産をAに遺贈する。A死亡後は,Bが取得する。」などと,遺言者が死亡して遺言の効力が発生した後に,遺産を譲り受けた受遺者が死亡した場合に,遺言者の指定する者に,遺贈の目的物を与えるとする内容の遺贈をいいます。

跡継ぎ遺贈型受益者連続信託

「跡継ぎ遺贈型受益者連続信託」とは,現受益者の有する信託受益権(信託財産より給付を受ける権利)が当該受益者の死亡により,予め指定された者に順次承継される旨の定めのある信託をいいます。

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