川崎パシフィック法律事務所

9 障害者の労働問題

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9 障害者の労働問題

9 障害者の労働問題

(1)「障害者差別禁止指針」と「合理的配慮指針」

ア 「障害者差別禁止指針」と「合理的配慮指針」の策定

(ア)障害者の労働問題にあたっては,以下のa.及びb.の各指針が策定されていることから,これらの指針に沿った対応が求められます。
a. 「障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し,事業主が講ずべき措置に関する指針(障害者差別禁止指針)」

b. 「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針(合理的配慮指針)」

(イ)「障害者差別禁止指針」及び「合理的配慮指針」の詳細については,厚生労働省HP 改正障害者雇用促進法に基づく「障害者差別禁止指針」と「合理的配慮指針」を策定しました をご参照ください。

障害者差別禁止指針(障害者に対する差別の禁止に関する規定に定める事項に関し,事業主が講ずべき措置に関する指針)

(ア)基本的な考え方
障害者差別禁止指針における「基本的な考え方」は,以下のa.~c.です。
a. 対象となる事業主の範囲は,すべての事業主であること

b. 障害者であることを理由とする差別(直接差別)を禁止していること(車いす,補助犬その他の支援器具などの利用,介助者の付添いなどの利用を理由とする不当な不利益取扱いを含む。)

c. 事業主や同じ職場で働く者が,障害特性に関する正しい知識の取得や理解を深めることが重要であること

(イ)差別の禁止
障害者差別禁止指針における「差別の禁止」は,以下のa.及びb.です。
a. 募集・採用,賃金,配置,昇進,降格,教育訓練などの各項目において,障害者であることを理由に障害者を排除することや,障害者に対してのみ不利な条件とすることなどが,差別に該当するとして整理していること(募集・採用の場面における具体例は以下の(a)~(c))
(a)障害者であることを理由として,障害者を募集又は採用の対象から排除すること
(b)募集または採用に当たって,障害者に対してのみ不利な条件を付すこと
(c)採用の基準を満たす者の中から障害者でない者を優先して採用すること

b. 以下の(a)~(c)の各措置を講ずることは,障害者であることを理由とする差別に該当しないこと
(a)積極的差別是正措置として,障害者を有利に取り扱うこと
(b)合理的配慮を提供し,労働能力などを適正に評価した結果,異なる取扱いを行うこと
(c)合理的配慮の措置を講ずること

合理的配慮指針(雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会若しくは待遇の確保又は障害者である労働者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するために事業主が講ずべき措置に関する指針)

(ア)基本的な考え方
合理的配慮指針における「基本的な考え方」は,以下のa.及びb.です。
a. 対象となる事業主の範囲は,すべての事業主であること

b. 合理的配慮は,個々の事情を有する障害者と事業主との相互理解の中で提供されるべき性質のものであること

(イ)合理的配慮の内容
合理的配慮指針における「合理的配慮の内容」については,以下のa.及びb.のように,合理的配慮の事例として,多くの事業主が対応できると考えられる措置の例を「別表」として記載していること
a. 【募集及び採用時】の記載例
(a)募集内容について,音声等で提供すること(視覚障害)
(b)面接を筆談等により行うこと(聴覚・言語障害)

b. 【採用後】の記載例
(a)机の高さを調節すること等作業を可能にする工夫を行うこと(肢体不自由)
(b)ご本人の習熟度に応じて業務量を徐々に増やしていくこと(知的障害)
(c)出退勤時刻・休暇・休憩に関し,通院・体調に配慮すること(精神障害ほか)

(ウ)合理的配慮の手続
合理的配慮指針における「合理的配慮の手続」については,以下のa.~c.が規定されていること
a. 募集・採用時: 障害者から事業主に対し,支障となっている事情などを申し出ること
採用後: 事業主から障害者に対し,職場で支障となっている事情の有無を確認すること

b. 合理的配慮に関する措置について,事業主と障害者で話し合うこと

c. 合理的配慮に関する措置を確定し,講ずることとした措置の内容及び理由(「過重な負担」にあたる場合は,その旨及びその理由)を障害者に説明すること/採用後において,措置に一定の時間がかかる場合はその旨を障害者に説明すること
※ 障害者の意向確認が困難な場合,就労支援機関の職員等に障害者の補佐を求めても差し支えないこと

(エ)過重な負担
合理的配慮指針における「過重な負担」については,以下のa.及びb.が規定されていること

a. 合理的配慮の提供の義務は,事業主に対して「過重な負担」を及ぼすこととなる場合を除くこと
事業主は,過重な負担に当たるか否かについて,以下の(a)~(f)の要素を総合的に勘案しながら個別に判断すること
(a)事業活動への影響の程度
(b)実現困難度
(c)費用・負担の程度
(d)企業の規模
(e)企業の財務状況
(f)公的支援の有無

b. 事業主は,過重な負担に当たると判断した場合は,その旨及びその理由を障害者に説明すること
その場合でも,事業主は,障害者の意向を十分に尊重した上で,過重な負担にならない範囲で,合理的配慮の措置を講ずること

(オ)相談体制の整備
合理的配慮指針における「相談体制の整備」については,以下のa.及びb.が規定されていること
a. 事業主は,障害者からの相談に適切に対応するために,必要な体制の整備や,相談者のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ,その旨を労働者に周知すること

b. 事業主は,相談したことを理由とする不利益取扱いの禁止を定め,当該措置を講じていることについて,労働者に周知すること

(2)障害者をめぐる労働問題における取扱い

ア 労働問題

一般的な労働問題については,「労働問題」をご参照ください。
障害をめぐる問題については,以下のイ~カの事例のように,雇用契約上の地位確認請求における解雇権濫用法理の適用などの場面や労災給付の場面などにあたって,障害者差別の禁止などの視点が加味されています。

イ 雇用契約上の地位確認請求において懲戒解雇が無効とされた事例

従業員が,被害妄想など何らかの精神的な不調のために,実際には事実として存在しないにもかかわらず,約3年間にわたり盗撮や盗聴等を通じて自己の日常生活を子細に監視している加害者集団が職場の同僚らを通じて自己に関する情報のほのめかし等の嫌がらせを行っているとの認識を有しており,上記嫌がらせにより業務に支障が生じており上記情報が外部に漏えいされる危険もあると考えて,自分自身が上記の被害に係る問題が解決されたと判断できない限り出勤しない旨をあらかじめ使用者に伝えた上で,有給休暇を全て取得した後,約40日間にわたり欠勤を続けたなど判示の事情の下では,上記欠勤は就業規則所定の懲戒事由である正当な理由のない無断欠勤に当たるとはいえず,上記欠勤が上記の懲戒事由に当たるとしてされた諭旨退職の懲戒処分は無効であるとされた事例(日本ヒューレット・パッカード事件・最二小判平24.4.227裁判集民240号237頁)

ウ 休職期間経過後の自動退職が違法とされた事例

上司等から仕事を与えられず,精神的に追い込まれて視覚障害を発症し,休職に追い込まれた結果,休職期間満了により自動退職扱いとなった者について退職の効力は生じていないとされた事例(東京地判平24.12.25労判1068号5頁)

エ 障害者の過労死案件において労災給付の不支給処分(遺族補償年金等不支給処分)が取り消された事例

心臓障害がある請求者の亡夫が死亡したのは過労が原因であると主張し,遺族補償年金を不支給とした国(労働基準監督署長)の処分取消しを求めた訴訟において,少なくとも身体障害者であることを前提として業務に従事させた場合に,その障害とされている基礎疾患が悪化して災害が発生した場合には,その労災認定における業務起因性の判断は,平均的な労働者ではなく,当該労働者を基準とすべきであるところ,本件の具体的事情のもとでは控訴人の亡夫の致死性不整脈による死という結果は,過重業務による疲労ないしストレスの蓄積から発生したであり,業務に起因したものと認めるのが相当であるとして,業務上の災害にあたるとした事例(豊橋労基所長事件・名古屋高判平22.4.16判タ1329号121頁)

オ 労働災害(労災)における安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求において安全配慮義務違反を認めた事例

クリーニング工場において,大型自動洗濯・乾燥機の操作中に機械に巻き込まれて死亡した知的障害者の事故につき,当該知的障害者の能力に応じた配慮がなされていなかったことをもって,会社及びその代表者に安全配慮義務違反があるとして損害賠償責任が認められた事例(Aサプライ(知的障害者死亡事故)事件・東京地八王子支判平15.12.10判時1845号83頁)

カ 労働災害(労災)における安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求において過失相殺を認めなかった事例

労働者が過重な業務によって,うつ病を発症し増悪させた場合において,使用者の安全配慮義務違反等を理由とする損害賠償の額を定めるにあたり,当該労働者が自らの精神的健康に関する情報を申告しなかったことをもって過失相殺をすることができないとされた事例(東芝事件・最二小判平26.3.24裁判集民246号89頁)

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